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英王室

チョコが大好物で、食材の無駄は許さない...お抱え料理人が明かすエリザベス女王の食卓

I Cooked for the Queen

2022年10月5日(水)17時50分
ダレン・マクグレーディー(元英王室シェフ)

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筆者は王家の食卓を支えた RANDY SHROPSHIRE/GETTY IMAGES FOR BRITWEEK

牛のリブロースステーキに、ヨークシャープディングやパースニップやマッシュポテトなどを添えた一品で、ステーキの焼き加減はウェルダン。シェフからすれば焼きすぎなのだが、女王は昔ながらの調理法にこだわり、いつも最初にこんがり焼き上げた1枚を自分の皿に取り分けさせた。

女王は専用のメニュー表から食べたいものを選び、食べたくないものは線で消した。来客がある場合は、選んだ料理の横に「2」と書けば2人分という意味だ。夕食や昼食を外で食べる場合はそのページごと線で消してあった。女王にとって食事はあくまで生きるため。私たちシェフも出すぎたまねはしなかった。

メニューの中には100年前から伝わる料理もあった。私は11年間、女王のために同じバースデーケーキを作った。チョコレートガナッシュケーキで、レシピはビクトリア女王のシェフのものだった。

王室の食事はさぞ贅沢だろうと思っていたが、シャンパンやキャビアやフォアグラが出るのは公式晩餐会のみ。普段はごく質素だった。

ある日、ロンドンのロイヤル・オペラハウスに出かける前にスモークサーモンとスクランブルエッグをリクエストされた。勤務経験の浅いシェフがレモンを1個丸ごと使った飾り切りを添えた。食事の後で給仕係がレモンの載った皿を下げてきて、無駄にしないで何かに使えないかと女王陛下が仰せだと言った。戦中派ゆえの堅実さだろう。

「ダイアナ妃と2人の王子たち」のシェフも務めた

私はバッキンガム宮殿の上級シェフにまで上り詰めた後、93年からダイアナ妃のシェフになった。96年にチャールズと離婚したダイアナに請われてケンジントン宮殿に移り、97年にダイアナが事故死するまで彼女と2人の王子のために料理を作った。

ダイアナは100を超える慈善団体を支援し、毎日ジムで体を鍛えていた。立ち直ろうとしている感じで、これまでになく輝いて見えた。彼女の希望は低脂肪の料理。炭水化物を食べすぎた分は運動で何とかするとのことだった。

私のレシピは一変した。女王のシェフ時代はクリームやバターや脂肪分たっぷりの伝統的なフランス料理が多かったが、ダイアナに出す料理は野菜、蒸し魚やポーチドチキンが中心。一方、ウィリアム王子とヘンリー王子の好物はシェパーズパイやピザやフライドチキンなど高カロリーで満足感のある食べ物ばかり。皆が満足するようバランスを取るのが私の仕事だった。

王子たちは厨房に入り浸って、かくれんぼをしたり、昼食や夕食のメニューを尋ねたり。メニューを変えさせようとすることもあった。

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