最新記事

統一教会

統一教会と関係を絶つとは何を意味するか。カルト対策に魔法の杖はない【石戸諭ルポ後編】

JUDGMENT DAY

2022年9月22日(木)11時09分
石戸 諭(ノンフィクションライター)
旧統一教会、合同結婚式

合同結婚式に参加した女性がスマホを見る(2020年、韓国) AP/AFLO

<カルト信者の脱会支援に取り組んできたにもかかわらず、SNSで「壺側」と批判された住職がいる。フランスの「反カルト法」が注目されるが、かの法律には問題もある>

※ルポ中編:選挙応援「ダサい」、親への怒り、マッチングサイト...統一教会2世たちの苦悩 から続く。

取材できた2世は限られてはいるが、多くの場合、彼らは社会に受け入れられないと思っている。政治家に彼らの声は届いているのだろうか。

カルト信者の脱会支援を続けてきた瓜生崇も、「親と信仰から距離を取る2世信者のほうが多数だ」と話す1人である。彼が懸念しているのは、過剰なバッシングで信者そのものが社会から差別され、排除されることだ。

瓜生は新宗教親鸞会の元信徒で、現在は滋賀県で真宗大谷派の住職を務めている。統一教会問題で毎日新聞のインタビューに答えただけで「壺側(統一教会擁護派)」という批判がSNSに寄せられ、抗議する人が寺にまでやって来た。

これまでカルト問題に関心を持っていなかった人々が、地道に脱会支援を続けてきた者を侮蔑し、たたくなかにあって、彼は冷静だった。

「カルトの歯止めとなるのは、社会に対して開かれていること。有効な脱会支援は、カルトであっても信教の自由があるとまずは認めて、信者の迷いやもがきと向き合うことにある。統一教会が過去にやってきたことは全く支持しないが、全員が悪人というのもあり得ない発想」

ある宗教と関係を絶つとは何を意味するのか、と瓜生は問い掛ける。例えば、仏教団体は「死刑廃止」を掲げて政治家に近づくこともあれば、政治活動にボランティアで関わることもある。そうした自発的なボランティアに対し、政治家が思想、宗教をチェックすることはできるのか。

「政治活動は癒着ではないし、思想チェックは絶対に許されない。宗教が政治に訴えるのは自由です。統一教会が『反社会的』だから政治に関わってはダメだという主張もある。でも、伝統宗教だって寄付やお布施の問題はあるし、統一教会も2009年以降は霊感商法もかなり減っている。今、違法な行為に手を染めていない信者はどうなりますか? 暴力団と同じ扱いにするなら信仰を理由に銀行口座開設も許されなくなる」

特定の宗教を法人としてつぶしたところで、信者の信仰は続く。だが、届け出も登録もなくなってしまった宗教は地下に潜ってしまい、問題を起こしたとしても責任を取る主体すら明らかではなくなる。過激な言葉で統一教会を批判する人々は、どこまで考えているのかと瓜生は思う。

私が観測する範囲でも、霊感商法こそ減ってはきたが、被害はゼロではないし、身分を明かさない偽装勧誘はいまだに続いている。これをやめさせる必要があることには異論がない。

ただし、統一教会を批判する側にも、相手の実像を見極めるより深い思考が必要になる。

彼らは最初に記したように政治家の主張を巧みに利用して「大きな影響力」があるよう振る舞う。

最近は自民の保守系が好む家族観を強調するが、鳩山政権時には、鳩山がこだわる「東アジア共同体」は日韓トンネルを掘ることで近づく、と梶栗は説いていた。だが、現在の彼らの歴史観では、「民主党左翼政権と対決した」ことになっている。「悪夢の民主党政権」論に寄せたためだ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

イスラエル軍、ガザ最大の難民キャンプとラファへの攻

ビジネス

中国、超長期特別国債1兆元を発行へ 景気支援へ17

ワールド

ロシア新国防相に起用のベロウソフ氏、兵士のケア改善

ワールド

極右AfDの「潜在的過激派」分類は相当、独高裁が下
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 2

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 3

    年金だけに頼ると貧困ライン未満の生活に...進む少子高齢化、死ぬまで働く中国農村の高齢者たち

  • 4

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 5

    ブラッドレー歩兵戦闘車、ロシアT80戦車を撃ち抜く「…

  • 6

    自宅のリフォーム中、床下でショッキングな発見をし…

  • 7

    地下室の排水口の中に、無数の触手を蠢かせる「謎の…

  • 8

    アメリカでなぜか人気急上昇中のメーガン妃...「ネト…

  • 9

    あの伝説も、その語源も...事実疑わしき知識を得意げ…

  • 10

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 1

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 2

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 3

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地ジャンプスーツ」が話題に

  • 4

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋…

  • 5

    「恋人に会いたい」歌姫テイラー・スウィフト...不必…

  • 6

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 7

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 8

    日本の10代は「スマホだけ」しか使いこなせない

  • 9

    ウクライナ防空の切り札「機関銃ドローン」、米追加…

  • 10

    「終わりよければ全てよし」...日本の「締めくくりの…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 6

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 10

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中