最新記事

ロシア

「プーチンの犬」メドベージェフ前大統領の転落が止まらない

The Fall of Dmitry Medvedev

2022年6月29日(水)13時30分
エイミー・マッキノン(フォーリン・ポリシー誌記者)
プーチンとメドベージェフ

プーチン(左)は自分の思いどおりに動くメドベージェフを重用してきた DMITRY ASTAKHOーSPUTNIKーPOOLーREUTERS

<「絶対的なパトロン」プーチンの健康不安による焦りから「プーチン後のロシア」を見据えて、強硬派へのアピールや反ユダヤ主義発言など過激な行動に出ている。政治的生き残りをかける、前大統領の無残な姿>

ロシアの若き大統領がシリコンバレーを視察──。後にも先にも考えられないような光景が実現したのは2010年のことだ。

44歳のドミトリー・メドベージェフ大統領は、ロシアが資源依存型経済から脱却するためのアイデア(と投資)を求めて、グーグルやアップルなどの大手テクノロジー企業を訪問。ツイッターの共同創業者であるビズ・ストーンは、「ツイッターの歴史でも指折りの特別な日」と語った。

メドベージェフ自身もツイッターデビューを果たした。「ハロー、みなさん。私もツイッターを始めました。これが私6の初メッセージです」とロシア語で(打ち間違い入りで)ツイートした。

あれから12年。最近のメドベージェフのソーシャルメディア投稿には、欧米政府高官に対する口汚い批判や、アメリカを攻撃するとか、ウクライナを地図から消し去るといった好戦的な言葉が目立つ。

ウクライナ侵攻がロシア国内にもたらす混乱が日常生活に表れ始め、さらにウラジーミル・プーチン大統領の健康悪化がささやかれるなか、メドベージェフは自己防衛策を強化しているようだ。

「ロシアのエリートの間では不安が大きくなっている。プーチンに守られてきたエリートも例外ではない」と、英王立統合軍事研究所(RUSI)のマーク・ガレオッティ上級研究員は語る。「この先どうなるのかという不安から、目立たないように隠れているエリートもいれば、声高に強硬な発言をするエリートもいる」

メドベージェフは昨年10月、ロシアの日刊紙コメルサントに反ユダヤ主義むき出しの寄稿をした。ロシアがウクライナ国境に兵力を集める少し前のことで、ユダヤ系であるウォロディミル・ゼレンスキー大統領をナチスと非難するなど、支離滅裂な陰謀論と罵詈雑言に満ちた寄稿だった。

かつては温厚に見えたメドベージェフの変節は、ロシアがヨーロッパにとって厄介な隣人から、存亡を脅かす存在に変貌したことと一致する。

突然ウクライナを猛批判

2月のウクライナ侵攻以来、ロシア政界はナショナリズム色が極めて濃くなり、異論を認めない風潮が強まった。メドベージェフの過激な主張も、強硬派の監視の目を意識して繰り出された可能性が高い。

「ロシア政治で起きている非常に興味深い変化の1つだ」と、ロシアのコンサルティング会社R・ポリティクのタチアナ・スタノバヤ代表は語る。「ロシアは変わった。そしてメドベージェフは、自分が新しいロシアの一員であることを示す必要に駆られている」

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、習主席と30日に韓国で会談=ホワイトハ

ワールド

ガザ地表の不発弾除去、20─30年かかる見通し=援

ビジネス

米ブラックストーン、7─9月期は増益 企業取引が活

ビジネス

米EVリビアン、600人規模の人員削減へ=関係筋
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:脳寿命を延ばす20の習慣
特集:脳寿命を延ばす20の習慣
2025年10月28日号(10/21発売)

高齢者医療専門家の和田秀樹医師が説く――脳の健康を保ち、認知症を予防する日々の行動と心がけ

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    報じられなかった中国人の「美談」
  • 2
    【2025年最新版】世界航空戦力TOP3...アメリカ・ロシアに続くのは意外な「あの国」!?
  • 3
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺している動物は?
  • 4
    「ママ、ママ...」泣き叫ぶ子供たち、ウクライナの幼…
  • 5
    ハーバードで白熱する楽天の社内公用語英語化をめぐ…
  • 6
    国立大卒業生の外資への就職、その背景にある日本の…
  • 7
    汚物をまき散らすトランプに『トップガン』のミュー…
  • 8
    「石炭の時代は終わった」南アジア4カ国で進む、知ら…
  • 9
    【ムカつく、落ち込む】感情に振り回されず、気楽に…
  • 10
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 1
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 2
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号返上を表明」も消えない生々しすぎる「罪状」
  • 3
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多い県」はどこ?
  • 4
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
  • 5
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 6
    【2025年最新版】世界航空戦力TOP3...アメリカ・ロシ…
  • 7
    本当は「不健康な朝食」だった...専門家が警告する「…
  • 8
    報じられなかった中国人の「美談」
  • 9
    「認知のゆがみ」とは何なのか...あなたはどのタイプ…
  • 10
    「ママ、ママ...」泣き叫ぶ子供たち、ウクライナの幼…
  • 1
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 2
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 3
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 4
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 5
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 6
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 7
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 8
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外…
  • 9
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 10
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中