最新記事

大統領選

露骨な男尊女卑で逆転勝利した韓国「尹錫悦」新大統領は、トランプの劣化版

MISOGYNY PREVAILS IN SOUTH KOREA

2022年3月25日(金)18時00分
ネーサン・パク(弁護士、世宗研究所非常勤フェロー)

220329P46_KAN_03.jpg

ソウルで行われた不動産規制の遡及適用に抗議する集会 CHRIS JUNGーNURPHOTO/GETTY IMAGES

メディアが公平に報道していれば、こうしたスキャンダル攻撃が奏功することはなかっただろう。事実が明らかになればなるほど李の無実が証明され、非難されるべきは尹のほうだと分かるはずだった。検察は李を徹底的に調査したが、収賄の証拠は一切出てこなかった。

大庄洞開発を進めていた業者が電話で話した内容が録音で残されている。その業者は、李は宅地開発で地価が上昇するからトンネルや排水設備工事も要請してきたと不満を漏らし、李を「共産主義者」の「嫌な奴」と非難。一方の尹については、開発資金をめぐる違法融資を捜査で「もみ消してくれた」と話している。

最後のテレビ討論で李は尹に直接、こう呼び掛けた。「特別検察官を直ちに任命し、選挙で勝った者が犯罪に手を染めていた事実を検察官が突き止めた場合は、当選を辞退することにしよう」。尹は言葉に詰まっていたが、「『共に民主党』は捜査を隠蔽し、検察の捜査には応じないつもりか」と声を荒らげた。

こうした話は、メディアでそれなりに報道された。だが、韓国メディアは保守系が圧倒的に強く(新聞大手5社はいずれも保守系)、扱いは小さかった。

代わりに連日報道されていたのは、李の妻が職員に公務用のクレジットカードで飲食費を支払わせていたというようなゴシップばかりで、尹の妻が株価操作に関与して70万ドル以上の利益を不正に得ていたことなど、尹側のもっと大掛かりな疑惑は、たとえ報道されても大きな話題になることはなかった。

尹は富裕層への減税も約束

政治経験のない候補者が特定の層や現行の政策への不満を募らせた有権者の心をつかみ、僅差で勝利した。この点で、尹を韓国のドナルド・トランプに例える声もある。だが、この見方は尹を過大評価しすぎだ。

トランプは、欠点は多いものの、独特のカリスマ性を備え、熱狂的に崇拝されていた。この点に限れば、もっとトランプに似ているのは前大統領の朴槿恵だろう。彼女には、韓国の経済発展を成し遂げた功労者である朴正煕(パク・チョンヒ)の娘という切り札があった。しかし尹には、熱狂的なファンなどいない。

だがトランプと尹には別な共通項がある。どちらも富裕層への減税を約束し、女性の進出に危機感を抱く男たちの不満をあおり、自分に友好的なメディアを動員して別の現実をつくり出し、選挙に勝った。1人の政治家として見れば、尹はトランプの劣化版にすぎないが、選挙戦術が当たって僅差の勝利を手にした。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

台湾の頼次期総統、20日の就任式で中国との「現状維

ワールド

イスラエル軍、ガザ北部で攻勢強化 米大統領補佐官が

ワールド

アングル:トランプ氏陣営、本選敗北に備え「異議申し

ビジネス

日本製鉄副会長が来週訪米、USスチール買収で働きか
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 2

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた異常」...「極めて重要な発見」とは?

  • 3

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバいのか!?

  • 4

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイ…

  • 5

    存在するはずのない系外惑星「ハルラ」をめぐる謎、…

  • 6

    チャールズ英国王、自身の「不気味」な肖像画を見た…

  • 7

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 8

    時速160キロで走行...制御失ったテスラが宙を舞い、4…

  • 9

    「円安を憂う声」は早晩消えていく

  • 10

    英供与車両から巨大な黒煙...ロシアのドローンが「貴…

  • 1

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 2

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 3

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 4

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々…

  • 5

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 6

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 7

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 8

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋…

  • 9

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバ…

  • 10

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中