最新記事

英王室

まもなくエリザベス女王在位70年に 祝賀ムードに影さす王室人気の低下

2022年1月29日(土)14時08分
イギリスのエリザベス女王

英国は今年、エリザベス女王が在位70年を迎え、祝賀ムードに包まれている。写真は2012年2月、ロンドンで撮影(2022年 ロイター/Eddie Mulholland)

英国は今年、エリザベス女王が在位70年を迎え、祝賀ムードに包まれている。だが、その陰に隠れるように王室にとってあまり喜ばしくない現実が存在する。つまり、この70年間のほとんどの期間で考えられなかったほど、君主制への疑問が高まっているということだ。

現在、95歳の女王が即位したのが1952年2月6日。それ以来、今ほど王室が厳しい視線を浴び、権威に傷がつくニュースの見出しが躍った局面はほとんどない。

例えば、女王の次男のアンドルー王子には、米国における性的虐待疑惑が浮上。孫のヘンリー王子と妻のメーガン妃は、王室内で人種差別的な発言にさらされたと報じられている。

女王は国民から非常に深い尊敬を得ているので、彼女が健在なうちは1000年近く続く君主制は安泰に見える。ただ、その後の展開となると、不透明感が増してくる。

英国で君主制反対運動を活発化させている政治団体「リパブリック(共和国)」を率いるグラハム・スミス氏は、ロイターに「君主制とエリザベス女王は、大半の国民にとっては同義語になっている。女王がいなくなった後は、世論がどうなるかは全く分からない」と語った。

その上でスミス氏は、議会が動きさえすれば君主制を廃止できるとはいえ、まずは国民投票をやるべきだという雰囲気になる公算が非常に大きいとの見方を示した。

現在の英王室は、遠く先祖をたどると1066年にイングランドを征服したノルマンディー公ウィリアムにたどりつく。その後、盛衰を繰り返してきたものの、英国が共和制となったのは1649年の清教徒革命でチャールズ1世が処刑されてからの約10年間だけだ。

エリザベス女王即位以降、王室の権威が最も下がったのは1990年代。3人の子どもが結婚に失敗したほか、1997年にはチャールズ皇太子の最初の妻だったダイアナ妃が死亡したことが響いた。

逆に権威が一番高まったのは、女王在位60年となった2011年で、この年に孫のウィリアム王子とキャサリン妃が結婚したことも重なり、国民の王室支持が強まった。

王室によると、今年は女王在位70年を祝う「プラチナジュビリー」として、6月に4日間特別の祝日が設けられる。王室報道官は、君主制の長期的な将来に関する質問についてはコメントを拒否した。

不祥事続き

英国の君主制支持派は、女王が国を安定させる役割を果たしている上に「ロイヤルブランド」が観光客を呼び込むため、経済も潤していると主張する。反対派は、君主制こそが不相応な特権の巣窟で、予算の一部は納税者が負担し、何人かの王室メンバーの振る舞いによって信頼も損なわれていると述べる。

そのメンバーの1人は、女王が4人の子どもの中で最も可愛がっているとメディアが伝えるアンドルー王子だ。米国で性的虐待の疑いで訴追されて係争中の王子は今月、王室によって軍籍と慈善団体などのパトロン(後援者)の役職を事実上はく奪された。

英紙サンデー・タイムズのコラムニスト、カミラ・ロング氏は「英国の君主制にとってこれは『滅亡レベル』の出来事だ。1000年にわたって大衆にこれ以上ないほど特別な存在だと言い聞かせてきたのに、現在の法廷で実は特別でも何でもないと大衆が分かってしまった」と記した。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

中国自動車輸出、4月は過去最高 国内販売は減少に減

ワールド

UNRWA本部、イスラエル住民の放火で閉鎖 事務局

ワールド

Xは豪州の法律無視できず、刃物事件動画訴訟で規制当

ビジネス

ドイツ住宅建設業者、半数が受注不足 値下げの動きも
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:岸田のホンネ
特集:岸田のホンネ
2024年5月14日号(5/ 8発売)

金正恩会談、台湾有事、円安・インフレの出口......岸田首相がニューズウィーク単独取材で語った「次の日本」

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋戦争の敗北」を招いた日本社会の大きな弱点とは?

  • 2

    「恋人に会いたい」歌姫テイラー・スウィフト...不必要な「プライベートジェット三昧」に非難の嵐

  • 3

    「少なくとも10年の禁固刑は覚悟すべき」「大谷はカネを取り戻せない」――水原一平の罪状認否を前に米大学教授が厳しい予測

  • 4

    休養学の医学博士が解説「お風呂・温泉の健康術」楽…

  • 5

    日本の10代は「スマホだけ」しか使いこなせない

  • 6

    上半身裸の女性バックダンサーと「がっつりキス」...…

  • 7

    ロシア軍兵舎の不条理大量殺人、士気低下の果ての狂気

  • 8

    ウクライナ防空の切り札「機関銃ドローン」、米追加…

  • 9

    テイラー・スウィフトの大胆「肌見せ」ドレス写真...…

  • 10

    「レースのパンツ」が重大な感染症を引き起こす原因に

  • 1

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地ジャンプスーツ」が話題に

  • 2

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受ける瞬間の映像...クラスター弾炸裂で「逃げ場なし」の恐怖

  • 3

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS攻撃「直撃の瞬間」映像をウクライナ側が公開

  • 4

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 5

    「恋人に会いたい」歌姫テイラー・スウィフト...不必…

  • 6

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋…

  • 7

    テイラー・スウィフトの大胆「肌見せ」ドレス写真...…

  • 8

    外国人労働者がいないと経済が回らないのだが......…

  • 9

    「レースのパンツ」が重大な感染症を引き起こす原因に

  • 10

    日本の10代は「スマホだけ」しか使いこなせない

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 6

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 7

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 8

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

  • 9

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 10

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中