最新記事

国際貢献

国際協力の業界は若者が少ないから──2つの世界をつなぐ伝道師:田才諒哉【世界に貢献する日本人】

2022年1月4日(火)17時50分
森田優介(本誌記者)
田才諒哉

現在はササカワ・アフリカ財団に所属し、エチオピア(写真)など4カ国で農業支援に携わる田才諒哉(右) COURTESY RYOYA TASAI

<国際協力の「現場」と「裏方」、オフラインとオンラインの両方を行き来してきた――。国際協力を議論するコミュニティーを立ち上げ、国際協力NGOを支援するNGO「JANIC」の最年少理事も務める29歳が抱く危機感>

会員は20~30代を中心に、現在171人。

NPO・NGOの現役職員から、人道支援に関心を持つ学生や社会人まで、さまざまな組織に属する日本人が集い、国際協力について語り合う。ゲストを招いたオンラインの勉強会だけでなく、タンザニアへのスタディーツアーや東京・原宿で環境問題を訴えるアートイベントを実施したこともある。

国際協力サロン」――ネット上の会員制コミュニティーであるオンラインサロンのひとつだ。会員は全員日本人なのに、一時期は28カ国にも散らばっていたという異色のオンラインサロンである。

そもそも、2018年10月にこのサロンをつくった人物が、日本にいなかった。

田才諒哉、29歳。当時は日本の医療支援NPO、ロシナンテスの職員として1年間のスーダン駐在を終え、開発学で世界最高峰の英サセックス大学大学院に進学した直後だった。どこにそんなエネルギーと余裕があったのだろう。

「英語でのアカデミックな経験は初めてで、確かに大変だったけれど、だからこそ息抜きの場がないときついと思った」と、田才は言う。「それで、母国語で国際協力の議論をできるサロンをつくった。オンラインだから、べつに大したことじゃないんです」

国際協力の「現場」と「裏方」、オフラインとオンラインの両方を経験し、境界を軽々と越えて行き来してきたのが田才だ。国際協力という、ある意味で古い業界に新風を吹き込もうとしてきた。

パラグアイで人生が変わる体験――「今でも言語化できない」

新潟県で生まれ育ち、横浜国立大学に入学した田才は、2年生になると、パラグアイにおける農村女性の生活改善の研究と実践で名高い藤掛洋子の研究室に入った。

しかし、当初は「国際協力への関心はゼロ」で、仲のいい友人についていっただけ。「どのゼミでもよかったのが正直なところ」だという。

田才の人生を変えた体験は、3年生の夏休みに大学のプログラムで1カ月間、藤掛の引率によりパラグアイに行ったこと。農村で世帯調査やワークショップを行った。渡航前に学生たちで資金集めをし、現地で学校を建設するという目的もあった。

「論文を読んだり授業を受けたりと勉強をしてきて、途上国では教育を受けられない子供たちがいると、ありきたりの情報をうのみにしていた」と、田才は振り返る。「でも行ってみると、想像していたほどは貧しいという印象を受けなかった。現場に行かないと分からないことがたくさんあると学んだ」

とはいえ、女性の地位が低いなど構造的な問題があることも知った。また、教育のほかにやるべきことが多く、学校というインフラを作ればそれでいいわけではない、ということも。

田才ら学生たちは藤掛と徹夜で議論し、「学校を建設しない」という結論を出す。翌朝、村の住民にそれを伝えると、期待していた人たちから強い反発があった。「国際協力の難しい部分を知った。あの経験は今でもうまく言語化できない」

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

中国、高市首相の台湾発言撤回要求 国連総長に書簡

ワールド

MAGA派グリーン議員、来年1月の辞職表明 トラン

ワールド

アングル:動き出したECB次期執行部人事、多様性欠

ビジネス

米国株式市場=ダウ493ドル高、12月利下げ観測で
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界も「老害」戦争
特集:世界も「老害」戦争
2025年11月25日号(11/18発売)

アメリカもヨーロッパも高齢化が進み、未来を担う若者が「犠牲」に

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やってはいけない「3つの行動」とは?【国際研究チーム】
  • 2
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 3
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワイトカラー」は大量に人余り...変わる日本の職業選択
  • 4
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベー…
  • 5
    中国の新空母「福建」の力は如何ほどか? 空母3隻体…
  • 6
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネ…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    ロシアのウクライナ侵攻、「地球規模の被害」を生ん…
  • 9
    「裸同然」と批判も...レギンス注意でジム退館処分、…
  • 10
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 3
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR動画撮影で「大失態」、遺跡を破壊する「衝撃映像」にSNS震撼
  • 4
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 5
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
  • 6
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 7
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 8
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 10
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中