最新記事

国際貢献

国際協力の業界は若者が少ないから──2つの世界をつなぐ伝道師:田才諒哉【世界に貢献する日本人】

2022年1月4日(火)17時50分
森田優介(本誌記者)

magSR20220104tasaiweb-2.jpg

学生時代、JICA青年海外協力隊の短期派遣制度で1カ月間、ザンビアに派遣された COURTESY RYOYA TASAI

持続する形で国際協力をすることの難しさを痛感した

言語化は難しくとも、行動はできる。帰国すると田才は、藤掛が顧問を務める国際協力機構(JICA)青年海外協力隊の短期派遣制度に応募する。

単位を落とさないよう、受講していた全ての授業の教官に交渉し、期末テストを免除してもらう代わりに課題を提出すると、翌年1月から1カ月間、ザンビアに派遣された。

4年生になると1年休学し、今度はe-Educationという日本のNPOのインターンとして、パラグアイに戻った。映像教材を使って教育支援をする団体だが、当時はまだ南米では事業を始めておらず、独りでの挑戦だった。

首都アスンシオンに暮らし、約1年前に「人生を変えた」経験をしたあの村も含め、農村を回って活動した。

映像教育と言っても、現地で誰かに授業をしてもらい、それを自ら撮影してDVDに焼き、インターネットの整備されていない村に持って行って、プロジェクターに投影するというもの。

ある時はパラグアイの東大とも言うべきアスンシオン大学に出向き、食堂で学生に話し掛け、拙いスペイン語で書いた「企画書」を見せるところから始めて、大学の先生に映像授業を撮らせてもらうことに成功したという。

「自分で考えて、自分で仲間を集めて、ゼロイチをひとりでやった。すごくよい経験になった」と、田才は話す。「でもそれが続かなかった。プログラムは自分がいる間だけで終わってしまった」

パラグアイでの9カ月間は、持続する形で国際協力をすることの難しさを田才に痛感させた。

現場に行くより裏方として動くほうが......という葛藤

2年前には関心すらなかった国際協力で、現場経験を次々と積んでいく田才。今も親交のある藤掛は、彼を「むちゃなところもあるが、非常に行動力がある。先を見通す力やリーダーシップもあり、人を引き付けるアイデアも豊富」と評する。

「ただ、国際協力やNPOでは、誠実さと信用、感謝の気持ちがなにより大切。たとえ裏切られても裏切ってはいけないと、私は考えている。田才くんに限らないが、学生たちにはそれでよく叱った」

パラグアイから12月に帰国すると、田才はすぐに、日本初のクラウドファンディングサービスを運営するレディーフォーでインターンとして働き始めた。

大学を卒業すると、そのまま同社に就職。希望して日本の社会課題解決に取り組むNGO・NPOのクラウドファンディングを担当し、自ら企画して国際協力団体の支援に特化した「ボヤージュ・プログラム」も立ち上げた。

「国際協力にお金が集まる仕組みをつくりたいと考えた」と、田才は言う。どんなウェブページを作って訴えるか、支援者とどんな関係を作ればいいかを国際協力団体に伝え、クラウドファンディングのサポートをした。

「1400万円を集めたプロジェクトもあったし、ボヤージュ・プログラムで調達した資金は合計で1億8000万円近くになった。一定の成果は出せたと思う」

国際協力活動をする上でお金は重要だ。本当は現場に行きたいが、こうして「裏方」として何十もの団体をサポートしたことで、自分一人が行くよりも、社会に大きなインパクトを与えられたと思う。やりがいは大きかった――。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米GM、EV関連工場などで人員削減へ 1500人超

ビジネス

サムスン電子、第3四半期は32%営業増益 半導体市

ワールド

Azureとマイクロソフト365の障害、徐々に復旧

ワールド

トランプ氏、核兵器実験の即時開始を国防総省に指示
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 3
    女性の後を毎晩つけてくるストーカー...1週間後、雨の夜の急展開に涙
  • 4
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 5
    コレがなければ「進次郎が首相」?...高市早苗を総理…
  • 6
    【話題の写真】自宅の天井に突如現れた「奇妙な塊」…
  • 7
    【クイズ】開館が近づく「大エジプト博物館」...総工…
  • 8
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 9
    リチウムイオンバッテリー火災で国家クラウドが炎上─…
  • 10
    【クイズ】12名が死亡...世界で「最も死者数が多い」…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    中国レアアース輸出規制強化...代替調達先に浮上した国は?
  • 4
    【話題の写真】自宅の天井に突如現れた「奇妙な塊」…
  • 5
    超大物俳優、地下鉄移動も「完璧な溶け込み具合」...…
  • 6
    熊本、東京、千葉...で相次ぐ懸念 「土地の買収=水…
  • 7
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 8
    報じられなかった中国人の「美談」
  • 9
    庭掃除の直後の「信じられない光景」に、家主は大シ…
  • 10
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 5
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ…
  • 6
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 7
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 8
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 9
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 10
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中