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トヨタが半導体不足で減産する一方、テスラが生産台数を大きく伸ばした理由

2021年10月26日(火)18時40分
竹内一正(作家、コンサルタント)
テスラ・モデル3

テスラ上海工場で生産されるモデル3 Aky Song-REUTERS

<世界的な半導体不足で自動車メーカーは減産が相次ぎ、トヨタは9月の国内販売が前年比約38%の減少となった。ところが、米テスラは7~9月の第3四半期で過去最多の販売台数を記録し、株価は最高値を付けた。どのようにしてテスラは半導体危機を乗り越えたのか。経営コンサルタントの竹内一正氏が解き明かす>

「垂直統合型」が半導体不足解消のカギだった

米GMの2021年第3四半期の北米販売は前年比33%減。ホンダは9月の国内販売が約20%減で、マツダに至っては約52%減だった。そして、トヨタは11月の世界生産計画を15%減らすと発表した。

一方、米テスラは第3四半期で過去最高の約24万台の販売を記録し前年比は73%増で、増収増益だった。株価も5月頃から上昇を続け、10月25日には時価総額1兆ドルを突破し、テスラ独り勝ちの様相を呈している。

テスラはどのようにして半導体不足を乗り切ったのか?

カギは「垂直統合型」にあった。

テスラはEV(電気自動車)のモーターからバッテリーパック、そして車体に至るまで内製している。それらは単にハードウエアに留まらず、ソフトウエアまで自社で設計している点が既存の大手自動車メーカーと大きく違う。

テスラはハードもソフトも含んだ「垂直統合型」で電気自動車を作り上げている。

今回の半導体不足が起きたとき、テスラは納期が長くなってしまった半導体にこだわるのではなく、短納期で入手できる別の半導体を見つけ出した。そして、半導体のファームウエアを数週間で書き換えて使えるようにした。ファームウエアとは半導体の基本動作を司るOS(オペレーティングシステム)のようなものである。

ただし、それだけでは不十分で、関連するソフトプログラムまで自社で修正した。

そして、代替の半導体を電子制御ユニット(ECU)に組込み、テスラ車に搭載して実車テストを短期間で一気呵成に完了させたのだ。

トヨタやGMの外注頼みと、組織の壁

では、トヨタやGMなどの大手自動車メーカーではどんな対応をしていたのか。

既存の大手自動車メーカーは、車載半導体は外部の半導体メーカーに任せっきりだ。具体的には技術部門が決めた仕様に基づき購買部門が半導体の調達を行う。もし、半導体の納期が長ければ、「もっと短くしてくれ」と購買担当者は半導体メーカーと交渉をする。

そもそも購買部門の仕事は、技術部門が決めた仕様の部品を1円でも安く、納期通りに仕入れることだ。納期が長いからと言って、代替の部品検討を自社の技術部門に頼み込むことはまずやらない。それは、技術部門の仕事を増やすことに他ならず、組織の壁が邪魔をする。

それでも、もし代替の部品検討を購買部が技術部門に頼んだとしたら、技術課長からどんな反応が返ってくるだろう?

「そんなことをやっている時間はない! 新製品開発を計画通りに進めることが最優先だ」と怒鳴られて終わりだ。

代替部品の検討は様々な試験が必要となり時間もかかる。技術部門は限られた人員で日程ぎりぎりの製品開発を進めている。開発計画にない代替部品の検討をいきなり言われても、対処できないというのが実態だ。

その上、代替の半導体がファームウエアの書き換えまで必要となると大変なことで、さらにソフトウエアにも手を加えるなど無理な話だ。何より、自動車メーカーに半導体のファームウエアの内容を理解し書き換えができる技術者はほとんどいない。それは半導体メーカーの仕事だからだ。

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