最新記事

EU

「メルケル後」のEU、仏マクロンが主導か 独走に不安も

2021年10月4日(月)11時04分

フランス大統領府は、こうした批判についてのコメント要請に応じていない。もっとも複数のフランス政府高官は非公式の場では、ロシアのプーチン大統領との関係も強化するというマクロン氏の戦略がほとんど成果をもたらしていないと認めている。

東欧諸国のある駐仏大使は「彼の対ロシア政策がどういう結果を招くかマクロン氏に言えるなら言いたい。マクロン氏がロシアとの接触を必要としているのは理解する。メルケル氏もそうだった。しかし彼の場合はやり方が問題だ」と一蹴した。

鍵はイタリアとオランダ

メルケル氏が進めた計画の中にも、欧州の深刻な分断につながった案件があったのは間違いない。その1つがロシアとドイツを結ぶ天然ガスパイプライン「ノルドストリーム2」の建設だ。とはいえ外交関係者によれば、メルケル氏は、マクロン氏が当たり前に繰り広げるごう慢な言い回しは慎重に避けてきた。

パリに拠点を置くシンクタンク、モンテーニュ研究所のジョージア・ライト氏は「フランスには構想はあるのだが、独善的になり過ぎるきらいがある。マクロン氏の指導力は時折、混乱も招くこともある。独仏が足並みをそろえるのは非常に重要だ。マクロン氏の名誉のために言えば、彼自身も実はこれが不十分だと気づいている」と話した。

そのドイツでは26日に連邦議会(下院)選挙が行われ、メルケル氏が属する保守連合の得票率は過去最低に沈んだ。現在は新政権樹立に向けて各党が連立交渉を進めている段階。ただ複数の外交官によると、ドイツの連立交渉の行方とは別に、マクロン氏が今後EU運営で成功を収められるかどうかでは、イタリアのドラギ首相とオランダのルッテ首相が鍵を握る。

ドラギ氏は欧州中央銀行(ECB)総裁の任期中にユーロ圏の危機を救った人物として尊敬を集めている。関係者の話では、マクロン氏は既にこのドラギ氏を取り込むべく、この夏に自身のバカンス地に招待していた。実際にはアフガニスタン情勢の混乱により、この話はなくなったという。

マクロン氏は、緊縮財政を推進する「フルーガル・フォー(倹約家の4カ国)」の結成を実現したルッテ氏への働き掛けも始めている。両者の交流を知る外交官の1人は、かつてマクロン氏がルッテ氏に「あなた方は次第に私のようになってきているし、われわれもあなた方に似てきている」と語ったことを明らかにした。

一方、ロイターが取材した5人の外交高官は全員、今になって多くの欧州諸国がマクロン氏の考えに賛成しつつあるとの見方を示した。以前、欧州企業をアジアや米国のライバルから守るという主張をフランスの単なる思いつきだと冷ややかにみていた国も、中国と米国がより踏み込んだ政策を採用したことで、フランス批判の姿勢を弱めている。

あるバルト諸国の外交官は「マクロン氏はやや過激に見えたが、われわれは彼が推進してきた措置の幾つかはかなり妥当性があることが分かった」と評価した。

EUの中で何かと先頭に立ち目立っていた英国が離脱し、フランスがちょうど来年1月からEUの議長国になることも、変化を後押しするとの声も出ている。

(Michel Rose記者、John Irish記者、Leigh Thomas記者)

[ロイター]


トムソンロイター・ジャパン

Copyright (C) 2021トムソンロイター・ジャパン(株)記事の無断転用を禁じます


【話題の記事】
・誤って1日に2度ワクチンを打たれた男性が危篤状態に
・新型コロナ感染で「軽症で済む人」「重症化する人」分けるカギは?
・世界の引っ越したい国人気ランキング、日本は2位、1位は...


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

豪賃金、第1四半期は予想下回る+0.8% 22年終

ビジネス

TSMC、欧州初の工場を年内着工 独ドレスデンで

ビジネス

ステランティス、中国新興の低価格EVを欧州9カ国で

ビジネス

午前の日経平均は続伸、米株高で 買い一巡後は小動き
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少子化の本当の理由【アニメで解説】

  • 2

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダブルの「大合唱」

  • 3

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史も「韻」を踏む

  • 4

    アメリカからの武器援助を勘定に入れていない?プー…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 7

    英供与車両から巨大な黒煙...ロシアのドローンが「貴…

  • 8

    ロシア国営企業の「赤字が止まらない」...20%も買い…

  • 9

    ユーロビジョン決勝、イスラエル歌手の登場に生中継…

  • 10

    「ゼレンスキー暗殺計画」はプーチンへの「贈り物」…

  • 1

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 2

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 3

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋戦争の敗北」を招いた日本社会の大きな弱点とは?

  • 4

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 5

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 6

    「恋人に会いたい」歌姫テイラー・スウィフト...不必…

  • 7

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 8

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 9

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 10

    日本の10代は「スマホだけ」しか使いこなせない

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 10

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中