最新記事

エチオピア

戦闘で陸の孤島と化したエチオピア・ティグレ州の惨状を訴える手紙

Tigray District Leader Offers Dire Account of Deaths, Looting in Region

2021年7月2日(金)19時31分
ジュリア・マーニン

しかしながら、数々の残虐行為をはたらいたと非難されている隣国エリトリアの部隊をはじめ、戦闘に携わったそのほかの当事者たちが停戦を守るかどうかは不透明だ。ティグレ人勢力の報道官は停戦を「悪趣味な冗談」だと一蹴し、同地域を「完全に解放する」つもりだと宣言した。

マイ・キネタル地区から州都メケレに届いた手紙を確認した保健当局者によれば、このような手紙が州都に届いたのは2度目だという。1通目はオフラ地区からで、150人が飢餓で死亡したと報告する内容だった。この手紙は4月に行われた国連安保理の非公開会合で共有されている。

前述の保健当局者(報復を恐れて匿名希望)によれば、マイ・キネタル地区からの手紙には、現地の悲惨な状況が詳細に記されていた。何千頭もの家畜が略奪され、何トンもの穀物が焼き払われた、などの詳しい記述もある。

ベルヘの手紙によれば、農業従事者が多いマイ・キネタル地区では農家が略奪に遭い、作物を育てるための種さえ手元に残っていない。同地区に一度だけ届いた支援は、1995年の古い国勢調査のデータを基に送られたもので、住民の半数は何も貰えなかった。

3万人超の子ども栄養失調

保健当局者は、マイ・キネタル地区から徒歩で州都に逃れてきた複数の住民から、大勢の人が飢えていると聞いてはいたが、ベルヘの手紙によって危機の詳細と規模がはっきりしたと述べた。「大勢の人が死んでいる。ひどい状況だ」と彼は語り、ほかにもアクセスできない地区が複数あるが、ティグレ州の多くの地域で電話回線が遮断されているため、連絡が入ってこないと明かした。

国連のある人道支援担当官は、マイ・キネタル地区について「我々が手を差し伸べたい、とりわけ重要な地域」だと述べ、AP通信に対して、戦闘が始まって以降、同地区をはじめとする数多くの地区への支援が遮断されていたことを認めた。

国連はティグレ州について、外部からの立ち入りが困難な地域に計160万人が残されていると推定しており、国連児童基金(UNICEF)は6月11日に、支援の手が届かなければ、これらの地域の少なくとも3万3000人の重度の栄養失調の子どもたちに「死の危険が迫っている」と警告した。だが人道支援活動家たちは、に今はまだ激しい戦闘が続いている地域もあり、状況が不安定だと警告している。

今週に入ってエチオピア政府軍が一方的に宣言した停戦も、恒久的なものではない。エチオピア政府は、停戦はティグレ人の農繁期が終わるまで、つまり9月までだとしている。ティグレ州の農業従事者たちが今後、どのような形で作物栽培に必要な種や農具を手に入れることができるのかは、明らかになっていない。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

英中銀が金利据え置き、総裁「正しい方向」 6月利下

ビジネス

FRB「市場との対話」、専門家は高評価 国民の信頼

ワールド

ロシア戦術核兵器の演習計画、プーチン氏「異例ではな

ワールド

英世論調査、労働党リード拡大 地方選惨敗の与党に3
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:岸田のホンネ
特集:岸田のホンネ
2024年5月14日号(5/ 8発売)

金正恩会談、台湾有事、円安・インフレの出口......岸田首相がニューズウィーク単独取材で語った「次の日本」

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地ジャンプスーツ」が話題に

  • 2

    「恋人に会いたい」歌姫テイラー・スウィフト...不必要な「プライベートジェット三昧」に非難の嵐

  • 3

    日本の10代は「スマホだけ」しか使いこなせない

  • 4

    「レースのパンツ」が重大な感染症を引き起こす原因に

  • 5

    休養学の医学博士が解説「お風呂・温泉の健康術」楽…

  • 6

    「自然は残酷だ...」動物園でクマがカモの親子を捕食…

  • 7

    この夏流行?新型コロナウイルスの変異ウイルス「FLi…

  • 8

    テイラー・スウィフトの大胆「肌見せ」ドレス写真...…

  • 9

    ロシア軍兵舎の不条理大量殺人、士気低下の果ての狂気

  • 10

    上半身裸の女性バックダンサーと「がっつりキス」...…

  • 1

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地ジャンプスーツ」が話題に

  • 2

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受ける瞬間の映像...クラスター弾炸裂で「逃げ場なし」の恐怖

  • 3

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国の研究チームが開発した「第3のダイヤモンド合成法」の意義とは?

  • 4

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS…

  • 5

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミ…

  • 6

    「恋人に会いたい」歌姫テイラー・スウィフト...不必…

  • 7

    外国人労働者がいないと経済が回らないのだが......…

  • 8

    テイラー・スウィフトの大胆「肌見せ」ドレス写真...…

  • 9

    「500万ドルの最新鋭レーダー」を爆破...劇的瞬間を…

  • 10

    「レースのパンツ」が重大な感染症を引き起こす原因に

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 6

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 7

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 8

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

  • 9

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 10

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中