最新記事

イラン

イラン核交渉の妥結が、大統領選挙に間に合わなかったせいで起きること

A Missed Opportunity

2021年6月22日(火)16時40分
アレックス・バタンカ(米中東問題研究所上級研究員)
次期大統領に選出されたライシ司法府代表

次期大統領に選出されたライシ司法府代表は保守強硬派として知られる MAJID ASGARIPOUR-WANA-REUTERS

<大統領選前に立て直し交渉で妥結すれば、強硬派のライシ次期大統領にとって有利だったはずだが......>

イランで4年ぶりの大統領選が行われた先週は、イラン核合意の立て直し交渉が妥結すると期待されていた週でもあった。

核開発にひた走るイランに待ったをかけるため、イランと6カ国(アメリカ、ロシア、中国、フランス、イギリス、ドイツ)が「包括的共同作業計画」に合意したのは2015年のこと。イランが濃縮ウランの製造などを大幅に縮小するのと引き換えに、国際社会は経済制裁を段階的に解除するはずだった。

ところが18年、アメリカのトランプ政権が一方的に合意を離脱して制裁を強化。これに激怒したイランが核開発活動を加速させ、15年の合意は崩壊しつつあった。だが、アメリカの政権交代を受け、合意の立て直しを図る交渉が今年4月からウィーンで毎週のように開かれていた。

残念ながら、1つの目安とされていた6月18日のイラン大統領選までに、交渉は妥結に至らなかった。では、今後は何が起こるのか。

まず、重要な事実はアメリカもイランも、この問題を外交的に解決したがっていることだ。両国が再建合意に求めている最低ラインも、はっきりしている。アメリカは、イランの核開発活動を15年のレベルまで戻してほしい。イランは、アメリカをはじめとする国際社会に、経済制裁の大部分を撤廃してほしい。

アメリカの強硬派に代替策はない

しかし、焦って長期的に維持できない合意を結ぶことも、両国は望んでいない。ジョー・バイデン米大統領にとって重要なのは、再建合意に対する国内の支持を最大化することではなく、声高な反対論を最小限に抑えることだ。

アントニー・ブリンケン米国務長官は、再建合意がまとまれば、イランは原油の輸出を再開して、外国から支払いを受けられるようになると認めてきた。それを気に入らない米議会関係者は多い。

バイデン政権は交渉に向けた「本気度」を示すため、既にイランの石油関連企業と関係者の一部に対する制裁を解除してきた。それだけでも、イランの中東における勢力拡大戦略の資金源になるとして、ワシントンでは批判の声が上がっている。

だが、バイデン政権の強みは、どんなに強力な批判派も「では、どうすればイランの核開発をストップできるか」という核心的な問いに対して、現実的な代替策を示せていないことだ。いかに厳しい制裁を科してもイランを止められないことは、最大限の圧力をかけたトランプ政権時代に既に明らかになっている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

中ロ首脳会談、対米で結束 包括的戦略パートナー深化

ビジネス

米鉱工業生産、4月製造業は0.3%低下 市場予想下

ビジネス

米4月輸入物価、前月比0.9%上昇 約2年ぶり大幅

ワールド

EXCLUSIVE-トルコ、予算削減額は予想上回る
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 2

    羽田空港衝突事故で「日航の奇跡」を可能にした、奇跡とは程遠い偉業

  • 3

    アメリカはどうでもよい...弾薬の供与停止も「進撃のイスラエル」は止まらない

  • 4

    老化した脳、わずか半年の有酸素運動で若返る=「脳…

  • 5

    半分しか当たらない北朝鮮ミサイル、ロシアに供与と…

  • 6

    総額100万円ほどの負担増...国民年金の納付「5年延長…

  • 7

    2023年の北半球、過去2000年で最も暑い夏──温暖化が…

  • 8

    共同親権法制を実施するうえでの2つの留意点

  • 9

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 10

    仰向けで微動だにせず...食事にありつきたい「演技派…

  • 1

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 2

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 3

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 4

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋…

  • 5

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 6

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 7

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 8

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 9

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 10

    「終わりよければ全てよし」...日本の「締めくくりの…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中