最新記事

人権

日本の大学教員だった父を突然、中国当局に拘束されて

2021年6月9日(水)18時30分
袁成驥(えん・せいき)

連絡が取れないまま、65歳で定年退職

しかしながら、父の解放に向けて、公的な支援を得るのは非常に難しいのが現状だ。出来ることなら、父が勤めていた北海道教育大学が父の拘束の件に関して積極的に声を上げて欲しかったが、それは叶わなかった。2020年3月に初めて中国当局が父の拘束を公にして以降、北海道教育大学に対して、私は学長に是非直接お会いして父の件について相談したいとお願いしていたが、大学からは断られた。

その後、今年3月31日をもって、65歳であった父は大学と連絡が全くとれないまま、定年退職となってしまった。その時に大学からは、父は今後大学に在籍しなくなるので、解放へ向けて何か支援するというのは難しい、という説明を受けた。自学の教員を守ろうとする姿勢を、大学は一切見せてくれなかった。

また、日本政府へ今回の件に対して支援を願うこともとても厳しい。父は日本の永住権を持つが、日本国籍ではないからだ。中国国籍である父が、中国によって身柄を拘束されてしまっている以上、日本政府が働きかけることが非常に難しいということは私も重々承知している。ただし今回のケースで、中国政府は父が日本の情報機関の要求に基づき諜報活動をしたと主張している。父が日本のスパイであると明言しているのである。

それならば、これが事実かどうなのかは日本政府が一番良く分かっているはずだ。父が日本の情報機関と何ら関わりがないのであれば、日本政府からそうはっきりと公言してほしい。日本政府が、父は日本のスパイではないと否定してくれれば父の容疑は晴れるはずだ。

父が拘束された本当の理由は全く分からない。何故父が中国当局から目をつけられてしまったのか、強いて挙げるとすれば以下の理由が考えられる。まず一つは、1989年に天安門事件が起きた際、当時一橋大学の学生だった父が事件の抗議活動を行ったことだ。父が拘束された2019年5月は、ちょうど天安門事件の30周年を迎えようとしていた時期だった。

また、父の専門だった東アジア外交史、特に台湾に関するこれまでの研究内容が中国当局の反発を招いたという見方もある。さらには、中国当局から何らかの協力を求められたが、父がそれを拒否したために逆にスパイ容疑をかけられたということも考えられる。父のことを快く思わない何者かが父を中国当局へ密告したという可能性もある。2014年にいわゆる反スパイ法を施行して以来、中国政府はスパイ行為の通報者には報奨金を出すなどして、自国民に密告を奨励している。

以上、父が拘束された理由として考えられるものをいくつか挙げてみたが、結局はどれも推測の域を出ない。中国当局が明らかにしない限り、真の理由は闇のままだ。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

米コノコ、マラソン・オイルを買収 225億ドル規模

ワールド

ロシア国家評議会書記にデュミン補佐官、プーチン氏後

ワールド

ごみ・汚物風船が韓国に飛来、「北朝鮮が散布」と非難

ワールド

シンガポール航空事故、急激な高度低下が負傷の原因と
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:イラン大統領墜落死の衝撃
特集:イラン大統領墜落死の衝撃
2024年6月 4日号(5/28発売)

強硬派・ライシ大統領の突然の死はイスラム神権政治と中東の戦争をこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    中国海軍「ドローン専用空母」が革命的すぎる...ゲームチェンジャーに?

  • 2

    メキシコに巨大な「緑の渦」が出現、その正体は?

  • 3

    自爆ドローンが、ロシア兵に「突撃」する瞬間映像をウクライナが公開...シャベルで応戦するも避けきれず

  • 4

    ハイマースに次ぐウクライナ軍の強い味方、長射程で…

  • 5

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 6

    プーチンの天然ガス戦略が裏目で売り先が枯渇! 欧…

  • 7

    汎用AIが特化型モデルを不要に=サム・アルトマン氏…

  • 8

    ロシアの「亀戦車」、次々と地雷を踏んで「連続爆発…

  • 9

    「なぜ彼と結婚したか分かるでしょ?」...メーガン妃…

  • 10

    「天国に一番近い島」で起きた暴動、フランスがニュ…

  • 1

    ロシアの「亀戦車」、次々と地雷を踏んで「連続爆発」で吹き飛ばされる...ウクライナが動画を公開

  • 2

    自爆ドローンが、ロシア兵に「突撃」する瞬間映像をウクライナが公開...シャベルで応戦するも避けきれず

  • 3

    「なぜ彼と結婚したか分かるでしょ?」...メーガン妃がのろけた「結婚の決め手」とは

  • 4

    ウクライナ悲願のF16がロシアの最新鋭機Su57と対決す…

  • 5

    中国海軍「ドローン専用空母」が革命的すぎる...ゲー…

  • 6

    黒海沿岸、ロシアの大規模製油所から「火柱と黒煙」.…

  • 7

    戦うウクライナという盾がなくなれば第三次大戦は目…

  • 8

    能登群発地震、発生トリガーは大雪? 米MITが解析結…

  • 9

    「天国にいちばん近い島」の暗黒史──なぜニューカレ…

  • 10

    少子化が深刻化しているのは、もしかしてこれも理由?

  • 1

    半裸でハマスに連れ去られた女性は骸骨で発見された──イスラエル人人質

  • 2

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 3

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 4

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 5

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 6

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 7

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 8

    ロシアの「亀戦車」、次々と地雷を踏んで「連続爆発…

  • 9

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋…

  • 10

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中