最新記事

宇宙

観測されない「何か」が、太陽系に最も近いヒアデス星団を破壊した

2021年4月2日(金)17時00分
松岡由希子

ヒアデス星団は、巨大な何かによって破壊され広がった......  ESA/Gaia/DPAC

<欧州宇宙機関(ESA)の宇宙望遠鏡ガイアの観測データを検証したところ、ヒアデス星団は、太陽質量の約1000倍もの巨大な塊と衝突したとみられることがわかった。しかし、その塊は周囲に観測されていない...... >

おうし座の顔の部分を形成するV字形の「ヒアデス星団」は、153光年離れた太陽系から最も近い散開星団だ。6〜7億年前に形成されたとみられ、橙色巨星「おうし座イプシロン星」など、100個以上の星が、約60光年にわたる球状の領域に含まれている。

そしてこのほど、この星団が、目に見えない巨大な塊の作用によって引き裂かれていたことが明らかとなった。

太陽質量の約1000倍の巨大な塊と衝突した?

星団の内部では、星が移動して、重力を相互に作用させる。星の速度を変化させ、その一部は星団の端に移動して、さらに銀河系の重力によって引っ張り出される。このような作用により、星団の前方と後方に2本の細長い尾のような領域「潮汐尾」が形成される。

オーストリア・ウィーン大学の研究チームは、銀河系の恒星10億個以上の距離と固有運動を精緻に測定する欧州宇宙機関(ESA)の位置天文学用宇宙望遠鏡「ガイア」の観測データを分析し、2019年1月、「ヒアデス星団から2本の潮汐尾を発見した」との研究論文を発表した。

この研究成果に注目した欧州宇宙機関らの研究チームは、コンピューターモデルを構築してヒアデス星団から離散した星の摂動をシミュレーションし、「ガイア」の観測データと比較して、ヒアデス星団から数千光年にも伸びる2本の潮汐尾を詳細に示した。一連の研究成果は、2021年3月24日、学術雑誌「ストロノミー・アンド・アストロフィジックス」で発表されている。

研究チームを特に驚かせたのは、ヒアデス星団の後方の潮汐尾に含まれる星が前方よりも少なかった点だ。これは、ヒアデス星団が穏やかに伸びていったのではなく、何らかの劇的な出来事が起こったことを示す。研究チームがさらにシミュレーションを実行したところ、潮汐尾が太陽質量の約1000倍もの巨大な塊と衝突し、壊されたとみられることがわかった。

しかし、質量の大きな星団は観測されていない......

しかし、ヒアデス星団の近傍には、質量の大きなガス雲や星団は観測されていない。研究チームは、衝突の原因となりうるものとして、質量を持つが光学的に直接観測できない「ダークマター(暗黒物質)」の「サブハロー」を挙げている。銀河系には、ダークマターが集まった塊「ダークマターハロー」があり、より小さなダークマターの塊「サブハロー」が存在する。

研究チームでは、今後、ヒアデス星団で用いた手法を応用し、他の星団からの潮汐尾についても研究をすすめる方針だ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

東南アジア諸国、米高関税適用受け貿易交渉強化へ

ビジネス

カンタス航空、600万人情報流出でハッカーから接触

ワールド

豪首相、12日から訪中 中国はFTA見直しに言及

ビジネス

ドイツ輸出、5月は予想以上の減少 米国向けが2カ月
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:大森元貴「言葉の力」
特集:大森元貴「言葉の力」
2025年7月15日号(7/ 8発売)

時代を映すアーティスト・大森元貴の「言葉の力」の源泉にロングインタビューで迫る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に...「曾祖母エリザベス女王の生き写し」
  • 2
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...父親も飛び込み大惨事に、一体何が起きたのか?
  • 3
    「飛行機内が臭い...」 原因はまさかの「座席の下」だった...異臭の正体にネット衝撃
  • 4
    アリ駆除用の「毒餌」に、アリが意外な方法で「反抗…
  • 5
    「ヒラリーに似すぎ」なトランプ像...ディズニー・ワ…
  • 6
    「やらかした顔」がすべてを物語る...反省中のワンコ…
  • 7
    米テキサス州洪水「大規模災害宣言」...被害の陰に「…
  • 8
    為末大×TAKUMI──2人のプロが語る「スポーツとお金」 …
  • 9
    中国は台湾侵攻でロシアと連携する。習の一声でプー…
  • 10
    後ろの川に...婚約成立シーンを記録したカップルの幸…
  • 1
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...父親も飛び込み大惨事に、一体何が起きたのか?
  • 2
    「やらかした顔」がすべてを物語る...反省中のワンコに1400万人が注目
  • 3
    後ろの川に...婚約成立シーンを記録したカップルの幸せ映像に「それどころじゃない光景」が映り込んでしまう
  • 4
    【クイズ】「宗教を捨てる人」が最も多い宗教はどれ?
  • 5
    職場でのいじめ・パワハラで自死に追いやられた21歳…
  • 6
    為末大×TAKUMI──2人のプロが語る「スポーツとお金」 …
  • 7
    「本物の強さは、股関節と脚に宿る」...伝説の「元囚…
  • 8
    「飛行機内が臭い...」 原因はまさかの「座席の下」…
  • 9
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に..…
  • 10
    アリ駆除用の「毒餌」に、アリが意外な方法で「反抗…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 3
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 4
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 5
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 6
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 7
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 8
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 9
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 10
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中