最新記事

香港

香港をロシア式「鳥籠民主主義」の実験場にする中国共産党

Hong Kong’s Democracy to Become Like Russia’s?

2020年12月10日(木)19時40分
サイモン・シェン(香港中文大学客員准教授)

一党独裁とは違う、この巧妙な支配体制の下で選挙を戦えるのは、ロシア政府に対して越えてはならない一線を尊重する政党だ。これらの党は国民の不満が強い時期には、選挙に勝つ見込みのない急進的な野党から支持を奪い、政府への抗議票を一手に引き受ける。ロシアが国際的な制裁逃れのために外国の支援を必要とするときには、政党幹部が国際的な場に出て、ロシアの民主主義と自由の声を披露する広報役になる。

複数政党による民主的な選挙を実施していても、プーチン政権は真の反対勢力には鉄拳を振るう。テロリストや過激主義者として認定された者は、世界のどこにいても超法規的措置によって処刑する。

外国に身を寄せた反体制派は、プーチンと御用メディアから「外国の手先」「欧米帝国主義の追従者」というレッテルを貼られる。そのためロシア国民は、反体制派を大っぴらに支持できなくなる。

国内にとどまる指導者もさまざまな手段で弾圧される。例えば選挙への出馬を阻まれたり、「事故」で命を失う危険にさらされたりする。

それでも、まだ声を上げることはできる。ロシアではネット上で日常的にプーチンが批判されている。中国本土など強権的な支配体制とは明確に異なる点だが、これもプーチンのやり口だ。言論の自由があるかのように装い、体制を正当化する。批判はポケット野党にも向けられ、反対勢力の間に対立を生じさせる。

「中国モデル」の実験場

香港が中国本土と同じように支配されるなら、民主派の共通の敵は明白だ。中国本土への容疑者引き渡しを可能にする逃亡犯条例改正案に反対した昨年の大規模デモのように、市民が一つになる可能性もあるだろう。

それは、冷戦末期の東欧で共産主義体制が崩壊したときに似た状況だ。当時は欧米寄りのリベラル派、民族的分離独立派、宗教的右派、労働組合、狂信的な共産主義者までが共通の敵に反旗を翻すため広範な野党連合を形成した。

だが香港の進む道は、異なるようだ。香港政府は選挙制度を操作し、市民社会を守る最後の一線を越えた。

この1年に手続き上の理由で候補者の資格を剝奪し、現職議員の資格を失効させた。資金も人材も豊富な体制側は、表向きには「開放的」な団体を取り込み、「出来レース」の選挙に備えた。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

中国大手銀行、高利回り預金商品を削減 利益率への圧

ワールド

米、非欧州19カ国出身者の全移民申請を一時停止

ワールド

中国の検閲当局、不動産市場の「悲観論」投稿取り締ま

ワールド

豪のSNS年齢制限、ユーチューブも「順守」表明
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本時代劇の挑戦
特集:日本時代劇の挑戦
2025年12月 9日号(12/ 2発売)

『七人の侍』『座頭市』『SHOGUN』......世界が愛した名作とメイド・イン・ジャパンの新時代劇『イクサガミ』の大志

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇気」
  • 2
    大気質指数200超え!テヘランのスモッグは「殺人レベル」、最悪の環境危機の原因とは?
  • 3
    トランプ支持率がさらに低迷、保守地盤でも民主党が猛追
  • 4
    コンセントが足りない!...パナソニックが「四隅配置…
  • 5
    若者から中高年まで ── 韓国を襲う「自殺の連鎖」が止…
  • 6
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙す…
  • 7
    海底ケーブルを守れ──NATOが導入する新型水中ドロー…
  • 8
    「世界一幸せな国」フィンランドの今...ノキアの携帯…
  • 9
    22歳女教師、13歳の生徒に「わいせつコンテンツ」送…
  • 10
    【クイズ】次のうち、マウスウォッシュと同じ効果の…
  • 1
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで墜落事故、浮き彫りになるインド空軍の課題
  • 2
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙すぎた...「心配すべき?」と母親がネットで相談
  • 3
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファール勢ぞろい ウクライナ空軍は戦闘機の「見本市」状態
  • 4
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体…
  • 5
    【クイズ】次のうち、マウスウォッシュと同じ効果の…
  • 6
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 7
    128人死亡、200人以上行方不明...香港最悪の火災現場…
  • 8
    【寝耳に水】ヘンリー王子&メーガン妃が「大焦り」…
  • 9
    【銘柄】関電工、きんでんが上昇トレンド一直線...業…
  • 10
    【クイズ】世界遺産が「最も多い国」はどこ?
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 4
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 5
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 6
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 7
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 8
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 9
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中