最新記事

検査

PCR検査より、早くて大規模な「迅速検査」で、新型コロナ感染拡大を終息させることができる

2020年11月26日(木)17時45分
松岡由希子

迅速に結果が判定できるLAMP法 photo/genengnews

<米コロラド大学などの研究で、新型コロナウイルス感染症の拡大を抑制するうえで、検査精度、検査頻度、検査所要時間のいずれが重要なのかを分析した......>

米政治ニュースサイト「ポリティコ」によると、ジョー・バイデン次期米国大統領は、新政権下で新型コロナウイルス対策にあたる専門家チームを立ち上げ、安価な迅速検査の利用推進など、具体的な戦略の策定をすすめている。そうしたなか、「無症状病原体保持者を含めた大規模な迅速検査により、新型コロナウイルスの感染拡大を数週間以内に終息に向かわせることができる」との研究論文が発表された。

検査精度、検査頻度、検査所要時間のいずれが重要なのかを分析

米コロラド大学ボルダー校バイオフロンティア研究所とハーバード大学公衆衛生大学院の研究チームは、新型コロナウイルス感染症の拡大を抑制するうえで、検査精度、検査頻度、検査所要時間のいずれが重要なのかを分析した。

2020年11月20日に学術雑誌「サイエンスアドバンシズ」で発表された研究成果によると、検査頻度の高さと検査所要時間の短さが感染者の効果的なスクリーニングにつながる一方、検査精度の高さは限定的な効果にとどまるという。

研究チームは、これまでに公開されている研究論文をもとに、「新型コロナウイルスに感染した時、どのようにウイルス量が上昇し、体内に侵入していくのか」を精査したうえで、数理モデルを用い、1万人、大学の学生数と同等の2万人、大都市の人口に相当する840万人の3つのシナリオで、検査による感染者のスクリーニングがもたらす影響を予測した。

この予測によると、ある都市の人口の4%がすでに感染している場合、人口の75%を対象に、3日ごとに迅速検査を実施すると、感染者数は88%下がり、6週間以内に感染拡大を終息に向かわせることができる。こうした大規模で迅速な検査により経済全体を封鎖するのではなく、より的を絞った措置が行えることを意味する。

最大48時間かかる精度の高いPCR検査では58%しか低減できなかった

大都市で大規模な検査を週2回実施する場合、精度は低いが検体採取から診断までの時間が短い迅速検査では、基本再生産数(感染者1人が感染させる平均的な人数:R0)が80%低減できる一方、検体採取から診断までに最大48時間かかる精度の高いPCR検査では基本再生産数をわずか58%しか低減できなかった。

新型コロナウイルスへの感染者の約3人に2人は無症状であることから、検査の結果を待っている間にもウイルスを拡散させてしまうためだと考えられる。

研究論文の筆頭著者でコロラド大学ボルダー校のダニエル・ラレモア准教授は、一連の研究成果について「公衆衛生の観点からは、検体採取の翌日に結果がわかる精度の高い検査よりも当日に結果が出る精度の低い検査のほうがよいということを示している」とし、「新型コロナウイルス感染症の検査に対する考え方を転換し、体調が悪くなったときに受けるものではなく、感染の伝播を断ち切り、社会経済活動を継続するために不可欠なツールと位置づけるべきだ」と説いている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

欧州企業、中国が投資先トップの割合過去最低=EU商

ビジネス

ネスレ、26年までにブラジルでネスカフェ強化に1.

ワールド

バイデン大統領次男の控訴退ける、銃不法購入で6月初

ビジネス

米、来週にも中国に関税発動 戦略的分野が対象=関係
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:岸田のホンネ
特集:岸田のホンネ
2024年5月14日号(5/ 8発売)

金正恩会談、台湾有事、円安・インフレの出口......岸田首相がニューズウィーク単独取材で語った「次の日本」

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「恋人に会いたい」歌姫テイラー・スウィフト...不必要な「プライベートジェット三昧」に非難の嵐

  • 2

    休養学の医学博士が解説「お風呂・温泉の健康術」楽しく疲れをとる方法

  • 3

    日本の10代は「スマホだけ」しか使いこなせない

  • 4

    上半身裸の女性バックダンサーと「がっつりキス」...…

  • 5

    ロシア軍兵舎の不条理大量殺人、士気低下の果ての狂気

  • 6

    「レースのパンツ」が重大な感染症を引き起こす原因に

  • 7

    テイラー・スウィフトの大胆「肌見せ」ドレス写真...…

  • 8

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋…

  • 9

    ウクライナ防空の切り札「機関銃ドローン」、米追加…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 1

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地ジャンプスーツ」が話題に

  • 2

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受ける瞬間の映像...クラスター弾炸裂で「逃げ場なし」の恐怖

  • 3

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS攻撃「直撃の瞬間」映像をウクライナ側が公開

  • 4

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 5

    「恋人に会いたい」歌姫テイラー・スウィフト...不必…

  • 6

    外国人労働者がいないと経済が回らないのだが......…

  • 7

    テイラー・スウィフトの大胆「肌見せ」ドレス写真...…

  • 8

    「レースのパンツ」が重大な感染症を引き起こす原因に

  • 9

    「自然は残酷だ...」動物園でクマがカモの親子を捕食…

  • 10

    翼が生えた「天使」のような形に、トゲだらけの体表.…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 6

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 7

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 8

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

  • 9

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 10

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中