最新記事

宇宙開発

トランプが宇宙開発を重視する理由......米代理大使、NASAアジア代表インタビュー

2020年9月15日(火)17時00分
澤田知洋(本誌記者)

なかでも日本に一日の長があるとみられているのはデブリの処理だ。地球の軌道には使用済みの人工衛星やロケットの破片などのデブリが無数に漂っており、衛星やISSに衝突すれば甚大な被害をもたらしかねないため、その除去は死活問題だ。アメリカとロシア由来のデブリが多いが、衛星攻撃兵器の実験などを行った中国のデブリも近年急増している。アストロスケールと日本の宇宙航空研究開発機構(JAXA)は共同で世界初となる大型デブリ回収の実証実験に取り組む予定で、日本政府もデブリに関する国連宇宙部との共同声明に署名して国際社会への関心の喚起に取り組んでいる。

「ホワイトハウスもこの問題を注視している」とヤング代理大使は述べる。18年にはトランプ大統領がデブリを含む宇宙を漂う物質に関する管轄省庁に商務省を充てる大統領指令に署名している。「地球低軌道でこれから商業開発が活発になっていくことを考えると、デブリの問題は避けて通れない。この分野においてデブリの特定、追跡、除去などで日本との協力がありうると思っている」。

中国の例に見られるように、この問題は軍事と重なりあう部分がある。NASAとしても、宇宙利用の増大に伴いデブリが増えてきていることと、宇宙空間の軍事利用が増えてきていることの2つを大きな課題を認識している、とマッキントッシュ代表は言う。ヤング代理大使も「ロシアや中国が軍事的な意味での対宇宙能力を開発していることへの懸念」はあると述べる。デブリの監視を含む宇宙状況の把握のため、日米の防衛当局は日本の衛星にアメリカの監視センサーを搭載するプロジェクトを進めており、これはこうした軍事・非軍事的課題に同時にアプローチするものといえる。

日本の協調外交への評価

とはいえ、アメリカは少なくとも現時点では日本に自国と一体となり宇宙空間で覇権争いを繰り広げることまでは求めていない。宇宙の平和利用を定め、日米中など110カ国が批准した1967年発効の宇宙条約はまだ生きている、ともヤング代理大使は強調する。またアメリカは国連の宇宙空間平和利用委員会での日本の取り組みなど日本の協調外交を高く評価しているという。「多国間関係で非常に効果的な活動している国というとまず日本が挙がる。世界中の国と宇宙で協力することを考えるときに、世界中の国と付き合いのある日本が参加することは期待感を上げるし、『増幅効果』が見られると思っている」とヤング代理大使は言う。

しかしここに一種のジレンマがある。日本が将来的に宇宙でも日米軍の一体的運用をさらに推し進める方向を選べば、このポジティブな「増幅効果」を呼び込む日本独特の立場も失われかねない。こうした地球上では使い古されたされたジレンマが、今までは考えなくても済んだ宇宙にまで及んでいる。宇宙関連の政策は軍事や経済など幅広い領域で地上との連動が強まりつつあり、次第にどっちつかずの態度は通用しなくなるだろう。

技術的協力などだけでなく、軍事的にもどこまで宇宙での日米同盟を深化させるのか。急速に発展する宇宙開発の環境のなか、日本が決断するために残された時間はおそらく少ない。

<関連記事:宇宙観測史上、最も近くで撮影された「驚異の」太陽画像
<関連記事:宇宙に関する「最も恐ろしいこと」は何? 米投稿サイトの問いかけにユーザーの反応は

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ロ中、ガス輸送管「シベリアの力2」で近い将来に契約

ビジネス

米テスラ、自動運転システム開発で中国データの活用計

ワールド

上海市政府、データ海外移転で迅速化対象リスト作成 

ワールド

ウクライナがクリミア基地攻撃、ロ戦闘機3機を破壊=
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 2

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた異常」...「極めて重要な発見」とは?

  • 3

    存在するはずのない系外惑星「ハルラ」をめぐる謎、さらに深まる

  • 4

    羽田空港衝突事故で「日航の奇跡」を可能にした、奇…

  • 5

    「円安を憂う声」は早晩消えていく

  • 6

    老化した脳、わずか半年の有酸素運動で若返る=「脳…

  • 7

    アメリカはどうでもよい...弾薬の供与停止も「進撃の…

  • 8

    共同親権法制を実施するうえでの2つの留意点

  • 9

    日鉄のUSスチール買収、米が承認の可能性「ゼロ」─…

  • 10

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 1

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 2

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 3

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 4

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋…

  • 5

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 6

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 7

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 8

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 9

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 10

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中