最新記事

ワクチン

新型コロナ、ワクチン開発の苦境──ワクチン実用化に時間がかかる理由は何か?

2020年7月30日(木)12時40分
篠原 拓也(ニッセイ基礎研究所)

実用化には、臨床試験で有効性と安全性を確認できなければならない sesame-iStock

<世界中の医薬品メーカーや研究機関の研究者がワクチン開発に取り組んでいるが、安全性とスピードの両立は容易ではない。臨床試験の3つのフェーズと、実用化へのハードルとは>

*この記事は、ニッセイ基礎研究所レポート(2020年5月1日付)からの転載です。

パンデミックとなった新型コロナウイルス感染症は、欧米を中心に、拡大が続いている。世界各国で、国境封鎖や感染地域からの入国制限、都市封鎖(ロックダウン)などの措置がとられているが、まだ収束の見通しは立っていない。

日本でも、都市部を中心に感染者の数が増加している。患者の集中によって医療施設が機能不全となる、医療崩壊の危機がさし迫っている。これを受けて、政府は5月6日までとしていた緊急事態宣言を、1ヵ月程度延長する方針を固めたと報じられている。外出自粛要請や休業要請など、市民の生活や社会、経済へ与える影響は増大している。

世界では、死亡者数でアメリカが5万人を超え、イタリア、イギリス、スペイン、フランスが2万人に達した。感染者数では、アメリカが100万人、スペイン、イタリアが20万人を上回っている。

世界全体で感染者は309万445人、死亡者は21万7769人。日本の感染者は1万4800人、死亡者は428人(横浜港に停留したクルーズ船を含む)に達している(4月30日現在/世界保健機関(WHO)調べ)。

この感染拡大を止めるには、ワクチンが欠かせないとされる。現在、世界中の医薬品メーカーや研究機関で、多くの研究者がワクチン開発に取り組んでいる。しかし、実用化までには、まだ時間がかかる見通しだ。その理由はどこにあるのか、みていこう。

3つのフェーズで行われるワクチン臨床試験

一般に、どんな医薬品でも、有効性と安全性を兼ね備えることが条件となる。特に、ワクチンには、高い安全性が求められる。

感染症に対するワクチンは、健康な人に向けて、予防の目的で投与される。このため、もしワクチンを投与したことで、健康な人が病気になってしまうようなら、大問題となりかねない。

医薬品開発では、原則として、臨床試験を通じて有効性と安全性が確認される。臨床試験は、法令に定める基準やガイドラインに従って行われる。そのガイドラインによれば、事前に大学などの審査委員会の審査・承認を受けること、被験者のインフォームドコンセント(十分な説明に基づく同意)を得ること──などとされている。

ワクチンの臨床試験は、3つのフェーズで行われることが一般的だ。

フェーズⅠは、通常、少人数の健康な成人を対象に、小規模な試験として行われる。ワクチンの有効性と安全性に関する、予備的な探索を行うことが目的となる。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米財務長官、ロシア凍結資産活用の前倒し提起へ 来週

ビジネス

マスク氏報酬と登記移転巡る株主投票、容易でない─テ

ビジネス

ブラックロック、AI投資で各国と協議 民間誘致も=

ビジネス

独VW、仏ルノーとの廉価版EV共同開発協議から撤退
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた異常」...「極めて重要な発見」とは?

  • 2

    存在するはずのない系外惑星「ハルラ」をめぐる謎、さらに深まる

  • 3

    「円安を憂う声」は早晩消えていく

  • 4

    無名コメディアンによる狂気ドラマ『私のトナカイち…

  • 5

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 6

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々…

  • 7

    中国のホテルで「麻酔」を打たれ、体を「ギプスで固…

  • 8

    他人から非難された...そんな時「釈迦牟尼の出した答…

  • 9

    「香りを嗅ぐだけで血管が若返る」毎朝のコーヒーに…

  • 10

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバ…

  • 1

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 2

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 3

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 4

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 5

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 6

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 7

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋…

  • 8

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 9

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 10

    地下室の排水口の中に、無数の触手を蠢かせる「謎の…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中