最新記事

新型コロナウイルス

コロナ時代の不安は、私たちの世界観を変える

The Relief of Uncertainty

2020年5月7日(木)15時15分
デービッド・ファーリー(ニューヨーク在住ライター)

友人が先日、スティーブン・ソダーバーグ監督の映画『コンテイジョン』を見たと言ってきた。今回のパンデミックを予言するような内容だと大きな話題になっている、2011年のパニック映画だ。なぜそんな映画を見たのかと聞くと、不思議と慰められるからだと友人は言う。というのも(以下ネタバレ注意)、映画では謎のウイルスのワクチンが開発されるのだ。

だがよくも悪くも、現実は映画の世界とは違う。必ずしも苦しみが終わり、ハッピーエンドが待っているとは限らない。そんな究極の不安に覆われた時代を、どう生きていけばいいのか。

仏教の教えを支えに

筆者は、大学院生時代の約20年前に仏教に出合った。だが、メディテーション(瞑想)とマインドフルネスに本気で取り組むようになったのは、ごく数年前のことだ。

それは、旅行ライターとして世界中を飛び回り、朝起きたときに自分がどこにいるか思い出せないような生活に、少しばかりの安定をもたらしてくれた。一生を共に過ごそうと思っていたパートナーとの突然の別れなど、心理的につらかった時期にも苦しみを和らげるのを助けてくれた。

それだけに、このアブノーマルな恐怖に覆われた時代に、筆者が一段と仏教の教えに傾倒しているのは当然かもしれない。仏教では、苦しみとは苦痛に対する抵抗から生じると考えられている。

チベット仏教の尼僧ペマ・チョドロンは、「苦しみの根源は、何事も無常であるという真実に抵抗することから生じる」と書いている。

確かにそれは、現在多くの人が感じている苦しみの原因の1つだ。この世に永遠に変わらないものなど存在しない。だが、私たちは、近い将来に死が存在するかもしれないという不透明性を受け入れて生きることに慣れていない。

このように見通しのつかない漠然とした時代には、大きなチャンスも存在する。重要なのは、このウイルス禍がいつまで続くかは分からないこと、そして自分が感染する(そして死ぬ)可能性が十分あるという事実を受け入れることだ。考えてもみるといい。このパンデミックが起こる前から、人生に確かなことなどなかったのだ。

筆者は不透明性を受け入れることで、飛行機の遅延やキャンセルをはじめ、もっとひどく深刻なアクシデントに見舞われたときも、冷静さと忍耐力を維持することができた。ひょっとすると、新型コロナ禍は、私たちに新たな世界観や人生観、そして死生観をもたらすかもしれない。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

UCLAの親パレスチナ派襲撃事件で初の逮捕者、18

ワールド

パプアニューギニアで大規模な地すべり、300人以上

ワールド

米、ウクライナに2.75億ドル追加軍事支援 「ハイ

ワールド

インド総選挙、首都などで6回目投票 猛暑で投票率低
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:スマホ・アプリ健康術
特集:スマホ・アプリ健康術
2024年5月28日号(5/21発売)

健康長寿のカギはスマホとスマートウォッチにあり。アプリで食事・運動・体調を管理する方法

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    戦うウクライナという盾がなくなれば第三次大戦は目の前だ

  • 2

    黒海沿岸、ロシアの大規模製油所から「火柱と黒煙」...ウクライナのドローンが突っ込む瞬間とみられる劇的映像

  • 3

    「なぜ彼と結婚したか分かるでしょ?」...メーガン妃がのろけた「結婚の決め手」とは

  • 4

    批判浴びる「女子バスケ界の新星」を激励...ケイトリ…

  • 5

    ウクライナ悲願のF16がロシアの最新鋭機Su57と対決す…

  • 6

    この夏流行?新型コロナウイルスの変異ウイルス「FLi…

  • 7

    半裸でハマスに連れ去られた女性は骸骨で発見された─…

  • 8

    「天国にいちばん近い島」の暗黒史──なぜニューカレ…

  • 9

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイ…

  • 10

    能登群発地震、発生トリガーは大雪? 米MITが解析結…

  • 1

    半裸でハマスに連れ去られた女性は骸骨で発見された──イスラエル人人質

  • 2

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 3

    娘が「バイクで連れ去られる」動画を見て、父親は気を失った...家族が語ったハマスによる「拉致」被害

  • 4

    「隣のあの子」が「未来の王妃」へ...キャサリン妃の…

  • 5

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバ…

  • 6

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイ…

  • 7

    ウクライナ悲願のF16がロシアの最新鋭機Su57と対決す…

  • 8

    戦うウクライナという盾がなくなれば第三次大戦は目…

  • 9

    能登群発地震、発生トリガーは大雪? 米MITが解析結…

  • 10

    黒海沿岸、ロシアの大規模製油所から「火柱と黒煙」.…

  • 1

    半裸でハマスに連れ去られた女性は骸骨で発見された──イスラエル人人質

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 4

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 5

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 6

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 7

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中