最新記事

医療

新型コロナウイルス感染拡大により世界で2840万件以上の手術が中止に

2020年5月21日(木)16時30分
松岡由希子

流行ピーク期の12週間で72.3%の予定手術が中止された ShutterOK-iStock

<新型コロナウイルスの感染拡大により中止もしくは延期された手術件数は、世界全体で2840万件以上と推定される...>

新型コロナウイルスの感染拡大に伴って世界各国で医療体制が逼迫し、がんをはじめ、新型コロナウイルス感染症以外の疾患の診療や治療にも甚大な影響が及んでいる。

71カ国359カ所の医療機関から情報収集し世界190カ国を推定

英バーミンガム大学の研究チームは、新型コロナウイルス感染症の流行ピーク期の12週間に延期された予定手術について71カ国359カ所の医療機関から情報収集し、統計モデルによって世界190カ国で中止された手術件数を推計。その研究成果を2020年5月12日、英医学誌「ブリティッシュ・メディカル・ジャーナル(BMJ)」で発表した。

これによると、新型コロナウイルスの感染拡大により中止もしくは延期された手術件数は、世界全体で2840万件以上と推定され、医療体制が逼迫し続ければ、さらに週あたり約240万件の手術が中止されるおそれがあるという。

新型コロナウイルス感染症の流行ピーク期の12週間で72.3%の予定手術が中止された。分野別にみると、整形手術が630万件と最も多く、がん手術も世界全体で232万件以上が中止または延期されている。この間に中止された手術を実施するためには、手術件数を流行拡大前に比べて20%増やした場合でも、平均45週間を要する。

臓器提供も著しく減少している

英国では、国営の国民保健サービス(NHS)が、2020年4月15日から少なくとも3ヶ月間、緊急性の低い予定手術を中止するよう通達を出し、これまでに、3万6000件のがん手術を含め、51万6000件の手術が中止された。NHSでは、今後、これらの手術の実施にあたって20億ポンド(約2640億円)以上のコストがかかるとみられる。

バーミンガム大学の上級講師であるアニール・バングー氏は「新型コロナウイルス感染症の流行ピーク期に予定手術を中止することで、患者が院内で新型コロナウイルスに感染するリスクを下げ、医療機関では、急増する新型コロナウイルス感染症患者の治療に対応しやすくなる」とする一方、「手術を待っている間に、患者の病状が悪化したり、QOL(生活の質)を下げてしまうおそれもある」と指摘している。

予定手術と同様に、新型コロナウイルスの感染拡大によって臓器提供数も減少している。米ペンシルバニア大学らの共同研究チームが5月11日に発表した研究論文によると、米国とフランスでは、新型コロナウイルス感染拡大により、心臓、肺、肝臓、腎臓の臓器提供が著しく減少しており、4月の臓器提供数は、フランスで対前年同月比91%減、米国で対前年同月比50%となっている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

銅に50%の関税へ、8日発表=トランプ氏

ワールド

BRICS諸国に「近く」10%の関税=トランプ氏

ワールド

プーチン氏に不満、対ロシア追加制裁を検討=トランプ

ワールド

英国王、仏大統領を国賓招待 ブレグジット後初のEU
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:大森元貴「言葉の力」
特集:大森元貴「言葉の力」
2025年7月15日号(7/ 8発売)

時代を映すアーティスト・大森元貴の「言葉の力」の源泉にロングインタビューで迫る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「ヒラリーに似すぎ」なトランプ像...ディズニー・ワールドの大統領人形が遂に「作り直し」に、比較写真にSNS爆笑
  • 2
    「弟ができた!」ゴールデンレトリバーの初対面に、ネットが感動の渦
  • 3
    犯罪者に狙われる家の「共通点」とは? 広域強盗事件の現場から浮かび上がる「2つの条件」
  • 4
    自由都市・香港から抗議の声が消えた...入港した中国…
  • 5
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に..…
  • 6
    トランプ、日本に25%の関税...交渉期限は8月1日まで…
  • 7
    「けしからん」の応酬が参政党躍進の主因に? 既成…
  • 8
    【クイズ】世界で最も売上が高い「キャラクタービジ…
  • 9
    トランプ税制改革の「壊滅的影響」...富裕層への減税…
  • 10
    職場でのいじめ・パワハラで自死に追いやられた21歳…
  • 1
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...父親も飛び込み大惨事に、一体何が起きたのか?
  • 2
    「やらかした顔」がすべてを物語る...反省中のワンコに1400万人が注目
  • 3
    後ろの川に...婚約成立シーンを記録したカップルの幸せ映像に「それどころじゃない光景」が映り込んでしまう
  • 4
    職場でのいじめ・パワハラで自死に追いやられた21歳…
  • 5
    【クイズ】「宗教を捨てる人」が最も多い宗教はどれ?
  • 6
    為末大×TAKUMI──2人のプロが語る「スポーツとお金」 …
  • 7
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に..…
  • 8
    「本物の強さは、股関節と脚に宿る」...伝説の「元囚…
  • 9
    「飛行機内が臭い...」 原因はまさかの「座席の下」…
  • 10
    アリ駆除用の「毒餌」に、アリが意外な方法で「反抗…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 3
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 4
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 5
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 6
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 7
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 8
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 9
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 10
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中