最新記事

医療

コロナ危機でアメリカ版「国民皆保険」への支持が急上昇

Support for Medicare for All in U.S. Surges Amid Coronavirus Pandemic

2020年4月2日(木)15時30分
ジェイソン・レモン

コロナ危機が米大統領戦を左右する?(写真は「国民皆保険」を訴えるサンダース) REUTERS/Kevin Lamarque

<従来からの無保険者だけでなく、雇用主を通じて医療保険に加入していたアメリカ人さえもロックダウンで失業、医療保険も失っている。最近の調査では、55%が皆保険を支持すると回答した>

アメリカで新型コロナウイルスの感染が急拡大するなか、11月の大統領選に向けて民主党の候補指名を争うバーニー・サンダース上院議員が提唱するアメリカ版「国民皆保険」(メディケア・フォー・オール)を支持する声が高まっている。新型コロナ感染の経済的負担を目の当たりにして、国民皆保険は社会主義だとして反対してきたアメリカ人も心を動かされ始めたようだ。

これは調査会社モーニングコンサルトとウェブメディアのポリティコが3月27日から29日にかけて実施した世論調査で明らかになったものだ。同調査では、回答者の55%がサンダースの提唱する国民皆保険制度を支持。過去最高だった2019年1月の56%と並ぶ高い支持率を記録した。

「有権者の35%は今もこの案に反対しており、純支持率(支持率から不支持率を引いた数字)は20ポイントと、2月半ばから9ポイントの上昇だった」とモーニングコンサルトは報告した。同世論調査は1997人の回答者を対象に実施され、誤差の範囲は±2%ポイントとされている。

サンダースら進歩主義の議員は、新型コロナウイルスのパンデミック(世界的な大流行)で医療費への不安が高まっていることを受け、アメリカにはやはり国民皆保険制度が必要だ、と訴えてきた。全国的に失業率が悪化するなか、雇用主を通じて医療保険に加入していた人々さえが、突然のリストラで保険を失い途方に暮れている。

保険未加入者が多い現状に危機感

サンダースは3月30日のツイートで、「アメリカの医療保険制度は、保険会社を儲けさせるためのものではなく、人々の命を守るものであるべきだ」と主張。

サンダースを支持している民主党のアレクサンドリア・オカシオコルテス下院議員(ニューヨーク選出)も、3月31日のツイートで同様の主張を行った。「毎年、営利目的の医療保険制度のために人々の命が犠牲になり、年を追うごとに事態が悪化していく」とオカシオコルテスは指摘。「保険の掛け金が払えなくなって、それでもメディケイド(低所得者医療保険制度)に加入するには『所得がありすぎる』場合はどうなるのか。何千万人もの人々が保険に加入できないか、保障が不十分な保険に加入している。私たちには国民皆保険制度が必要だ」

米連邦議会は3月18日に成立させた新型コロナウイルス対策で、既に同ウイルスの「検査」の無償化を決定しているが、多くの進歩主義者たちは、感染した場合にはさらに何万ドルもの治療費がかかる可能性があるため、この対策では不十分だと指摘している。アメリカでは今も、保険に加入していない人や保険の保障範囲が狭くて不十分な人が何千万人もいるため、病気になることが経済的な破綻に直結しかねない。

<参考記事>新型コロナと戦う米政治家が大統領候補として急浮上、サンダース抜く
<参考記事>新型コロナ蔓延でアメリカ大統領選は「未知の領域」へ

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

LSEG、第1四半期決算は市場予想と一致 MSとの

ワールド

北朝鮮製武器輸送したロシア船、中国の港に停泊 衛星

ビジネス

大和証G、1―3月期経常利益は84%増 「4月も順

ビジネス

ソフトバンク、9月末の株主対象に株式10分割 株主
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴らす「おばけタンパク質」の正体とは?

  • 3

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗衣氏への名誉棄損に対する賠償命令

  • 4

    心を穏やかに保つ禅の教え 「世界が尊敬する日本人100…

  • 5

    マイナス金利の解除でも、円安が止まらない「当然」…

  • 6

    ワニが16歳少年を襲い殺害...遺体発見の「おぞましい…

  • 7

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    中国のロシア専門家が「それでも最後はロシアが負け…

  • 10

    ケイティ・ペリーの「尻がまる見え」ドレスに批判殺…

  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 5

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 6

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 7

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 8

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 9

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 10

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 10

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中