最新記事

アメリカ政治

トランプ、ヒスパニック向けフェイスブック広告で隠した「不法移民の国外追放」

2019年11月5日(火)18時15分

来年の米大統領選で再選を目指すトランプ大統領陣営はこの半年間、不法移民取り締まり強化への支持を呼び掛ける英語広告を、フェイスブックに3000件以上投稿した。写真は2016年7月、オハイオ州クリーブランドで開かれた共和党大会で、「トランプ支持のラティーノ」のプラカードを掲げる男性(2019年 ロイター/Carlo Allegri)

来年の米大統領選で再選を目指すトランプ大統領陣営はこの半年間、不法移民取り締まり強化への支持を呼び掛ける英語広告を、フェイスブックに3000件以上投稿した。多くは「不法移民の国外追放」を求めるオンライン請願書への署名を呼び掛けるものだ。

ところが同期間に陣営が投稿した1200件のスペイン語広告は、選挙公約の柱である不法移民対策にほぼ触れていない。

代わりに掲載されているのは、民主党はベネズエラ流の社会主義を望んでいるとの警告や、「Latinos for Trump(トランプ支持の中南米系)」の合言葉が描かれた商品の宣伝だ。ロイターが5月以降のトランプ氏のフェイスブック広告6万9000件以上を調査した結果、明らかになった。

「社会主義を認めますか?イエス、それともノー?」とスペイン語の広告は問いかけている。米経済は好調だと訴え、左派として有名な民主党のオカシオコルテス、オマル両議員をたたく内容のものもある。

英語版とスペイン語版の対照は、トランプ氏が両天秤戦略という大きな賭けに出ていることをうかがわせる。同氏の対移民強硬姿勢を賞賛し、主な支持基盤である白人共和党層をたきつける一方で、マイノリティー有権者の中で最大の票田となるヒスパニック系にも秋波を送ろうとしているのだ。

テキサス、ニューメキシコ、フロリダ各州ではヒスパニック系有権者を対照に、「Vamos to Victory(勝利へ)」と銘打ったツアーも催行した。

メキシコ人を「殺人犯」、「強姦犯」呼ばわりするトランプ氏だが、2016年の大統領選ではヒスパニック系の票の3分の1近くを獲得した。ロイター/イプソスが7―9月に実施した世論調査では、ヒスパニック系の支持率は全有権者の39%に比べると低いが、29%に達した。

アリゾナやフロリダなど多様化が進む州で勝つには、この支持層をてこにした運動が鍵になる。

しかしヒスパニック系は、トランプ氏が強行して撤回した不法移民親子の分離拘束などの移民政策を、非ヒスパニック系白人有権者ほどには支持しそうにない。

ロイター/イプソスの調査では、移民問題を最優先すべき政治課題だと考えるヒスパニック系のうち、国境警備の強化など保守的政策を支持すると答えたのは10人に4人で、非ヒスパニック系白人の10人に8人を下回った。

意見が分断する問題だけに、トランプ氏がスペイン語の広告から移民問題を外すのは賢明だと共和党政治ストラテジスト、マイク・マドリード氏は言う。

米国のヒスパニック系住民約6000万人の間で、スペイン語は広く話されている。スペイン語人口は米有権者の約10%を占め、多くがアリゾナ、フロリダ両州など大統領選の主戦場に住んでいる。

トランプ陣営のデジタル広告展開は大統領選の候補者中で最も大きく、ロイターの分析によるとスペイン語の広告は民主党候補者18人を合わせた分量を上回っている。

ウォーレン上院議員らの民主党候補もスペイン語で広告を出しているが、トランプ氏と異なり英語広告と同じ内容だ。移民の貢献をたたえ、トランプ氏の移民政策は分断を招き、人種差別的だなどと訴えている。

ロイターの分析は、ニューヨーク大学タンドン・スクール・オブ・エンジニアリングのコンピューター科学者らが集めたフェイスブック広告データに基づいて実施した。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米・メキシコ首脳が電話会談、不法移民や国境管理を協

ワールド

パリのソルボンヌ大学でガザ抗議活動、警察が排除 キ

ビジネス

日銀が利上げなら「かなり深刻」な景気後退=元IMF

ビジネス

独CPI、4月は2.4%上昇に加速 コア・サービス
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われた、史上初の「ドッグファイト」動画を米軍が公開

  • 4

    メーガン妃の「限定いちごジャム」を贈られた「問題…

  • 5

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 8

    19世紀イタリア、全世界を巻き込んだ論争『エドガル…

  • 9

    ナワリヌイ暗殺は「プーチンの命令ではなかった」米…

  • 10

    目の前の子の「お尻」に...! 真剣なバレエの練習中…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 4

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 5

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 6

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 7

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 8

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 9

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 10

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 4

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 5

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 6

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 7

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 8

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    「誰かが嘘をついている」――米メディアは大谷翔平の…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中