最新記事

スマホ決済アプリ

実質4日しかフル稼働しなかった7pay、サービス終了が決まっても火種は燻ったまま

2019年8月2日(金)17時30分
楠正憲(国際大学Glocom客員研究員)

Kim Kyung-Hoon-REUTERS

<7payは9月末でサービス終了が発表された。 濫立する決済サービス、グループのデジタル戦略への影響は......>

セブン&アイホールディングスは8月1日、7月1日から開始した7payを9月いっぱいで終了すると発表した。記者会見での質疑によると7payを運営していた株式会社セブン・ペイは解散せず、今後も新たなスマホ決済サービスの提供を模索するとみられる。早期にサービスの安全性を確保する改修は難しく、サービス継続は困難と判断したようだ。7IDを使ったECサイトOmni7の運営は継続するという。

7payはリリースからチャージ機能を一時停止した4日までの実質4日間しかフル機能で稼働しなかった。約150万人の登録者のうち、7月29日時点の被害者は807人、計3860万円で、決済サービスの不正利用額としては決して多くない。2019年1~3月期のクレジットカード不正利用が68.5億円であることを考えると、むしろ被害は軽微といっていい。例えば昨年末に不正利用が問題となったPayPayでは被害が数億円に上ったといわれる。

収益モデルの構築がますます難しくなった

スマホアプリとQRコードを使った決済サービスは、政府による消費増税後のキャッシュレス補助金を前に参入が相次いだが、7payの早期撤退によって安全対策が不十分なまま参入した場合のリスクが浮き彫りになった。これから参入する事業者はキャッシュレス推進協議会の示したガイドラインを遵守できているかどうかなど、安全対策の再点検を行うことが求められる。スケジュール優先の安易な参入が抑制されることも考えられる。

決済手数料とカード発行手数料を取るクレジットカードと異なり、競争が過熱しているスマホ決済アプリでは手数料無料で収益モデルを描きにくい一方で、クーポンやキャンペーンによる還元の費用が嵩み、各社とも百億規模の赤字を積み上げながらの競争が続いている。

これまでスマホ決済サービスでは補償の範囲が明確でないケースもあったが、事業者の瑕疵によって事故が起きた場合、クレジットカードと同様に補償が求められる前例が積み上がったことで、収益モデルを描くことはこれまで以上に難しくなった。

不安が同社のECサイトに飛び火することを避けようとする狙い

セブン&アイホールディングスにとって決済サービスの提供による利益は当面期待できず、他社のスマホ決済アプリはこれまで通り利用できることから事業への短期的な影響は軽微だ。

しかしながら長い目で見ると、スマホ決済アプリの優勝劣敗が明らかになった後に決済サービス各社が決済手数料を引き上げることが予想される中で、自社サービスを持たないために決済手数料をグループ内で還流させることができず、他社と決済手数料率を交渉する上で不利に働くことも考えられる。

それでも短期での撤退を決めたのはOmni7をはじめとしたEC事業の売上が2018年に1000億円を超えている中で、7payに対する利用者の不安が同社のECサイトに飛び火することを避けようとする狙いが透けて見える。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

維新、連立視野に自民と政策協議へ まとまれば高市氏

ワールド

ゼレンスキー氏、オデーサの新市長任命 前市長は国籍

ワールド

ミャンマー総選挙、全国一律実施は困難=軍政トップ

ビジネス

ispace、公募新株式の発行価格468円
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本人と参政党
特集:日本人と参政党
2025年10月21日号(10/15発売)

怒れる日本が生んだ「日本人ファースト」と参政党現象。その源泉にルポと神谷代表インタビューで迫る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    まるで『トップガン』...わずか10mの至近戦、東シナ海で「中国J-16」 vs 「ステルス機」
  • 2
    フィリピンで相次ぐ大地震...日本ではあまり報道されない、被害の状況と実態
  • 3
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以外の「2つの隠れた要因」が代謝を狂わせていた
  • 4
    「心の知能指数(EQ)」とは何か...「EQが高い人」に…
  • 5
    「欧州最大の企業」がデンマークで生まれたワケ...奇…
  • 6
    イーロン・マスク、新構想「Macrohard」でマイクロソ…
  • 7
    【クイズ】アメリカで最も「死亡者」が多く、「給与…
  • 8
    「中国に待ち伏せされた!」レアアース規制にトラン…
  • 9
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 10
    「中国のビットコイン女王」が英国で有罪...押収され…
  • 1
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 2
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな飼い主との「イケイケなダンス」姿に涙と感動の声
  • 3
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以外の「2つの隠れた要因」が代謝を狂わせていた
  • 4
    【クイズ】日本人が唯一「受賞していない」ノーベル…
  • 5
    中国人が便利な「調理済み食品」を嫌うトホホな理由…
  • 6
    ベゾス妻 vs C・ロナウド婚約者、バチバチ「指輪対決…
  • 7
    まるで『トップガン』...わずか10mの至近戦、東シナ…
  • 8
    時代に逆行するトランプのエネルギー政策が、アメリ…
  • 9
    ウクライナの英雄、ロシアの難敵──アゾフ旅団はなぜ…
  • 10
    フィリピンで相次ぐ大地震...日本ではあまり報道され…
  • 1
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 2
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 3
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 4
    カミラ王妃のキャサリン妃への「いら立ち」が話題に.…
  • 5
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 6
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 7
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 8
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外…
  • 9
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 10
    数千円で買った中古PCが「宝箱」だった...起動して分…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中