最新記事

金融

「魔の時間」襲うフラッシュクラッシュは為替市場の新常態になるか

2019年6月7日(金)12時31分

日々552兆円(5.1兆ドル)の取扱高を擁する外国為替市場で、相場が一瞬で急激に動く「フラッシュクラッシュ」が発生する頻度が高まっており、通貨当局を大いに悩ませている。写真は2014年11月香港で撮影(2019年 ロイター)

日々5.1兆ドル(約552兆円)の取扱高を擁する外国為替市場で、相場が一瞬で急激に動く「フラッシュクラッシュ」が発生する頻度が高まっており、通貨当局を大いに悩ませている。

突然かつ急激で、多くの場合また急に値を戻す相場変動は、世界の通貨市場において、もはや日常茶飯事となっている。頻発するのはニューヨーク時間の午後5─6時、現地の為替ディーラーが店じまいを始め、東京がまだオープンしていないために取引が薄くなるため「ウィッチングアワー(魔の時間)」と呼ばれる時間帯だ。

今年に入ってから起きた2度の大きなクラッシュでは、それぞれ円とスイスフランが乱高下した。為替レートは、貿易、投資、世界経済にとっての重要性が高いため、1度の大規模な変動によって金融の安定が脅かされることを政策当局者は懸念している。

「問題は、これがニューノーマル(新常態)なのか、それとも炭鉱のカナリア的なものなのかということだ」と、国際通貨基金(IMF)のファビオ・ナタルッチ金融資本市場局次長は語った。「発生頻度も高まっており、将来大規模な流動性ストレスイベントが起きる予兆という可能性もある」

ナタルッチ次長は、クラッシュまでの数日前には流動性のひずみ(売買注文の不足を指す用語)は明らかだったと指摘。IMFでは次のクラッシュがいつ来るかを予測するための監視ツールを開発していると語った。

状況の深刻さを裏付けるように、中央銀行総裁や市場関係者が出席するニューヨーク連銀の為替市場関係者のフォーラムでも今年、フラッシュクラッシュの話題は頻繁に取り上げられている。

業界全体で為替取引が自動マッチング化したことを受けて、値動きが多く、激しくなったという点で、銀行と政策当局者の見解は一致している。つまり今後も、クラッシュが起きるリスクが極めて高いということだ。

「私たちの悲観的な見解は、為替市場においてこうした技術の比重が高まりつつあり、監視を強化していく必要があるということだ」と主要10カ国(G10)の中銀関係者は匿名で語った。

とはいえ、当局はまだ非常ボタンに手をかけているわけではない。ナタルッチ次長は、フラッシュクラッシュがこれまで企業や家庭の資金調達コストを増大させた証拠はないと指摘し、急いでなんらかの規制で対応する前に、問題を調査することは理にかなっていると述べた。

すでに為替市場では「ミニ・クラッシュ」が2週間に1度程度発生している、とコンピューターシステムによる為替自動取引を提供するプラグマによる調査で判明した。

この種のクラッシュでは、ある通貨の値が急激に動いたかと思うとまた即座に値を戻し、それと同時に売値と買値のスプレッドが突然大きく広がる。そして、大半のケースでは数分後にスプレッドは狭まる。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

オーストラリア年次予算、2年連続で黒字見込み 14

ビジネス

SUBARU、トヨタと共同開発のEV相互供給 26

ビジネス

対仏投資促進イベント、160億ドル獲得見込み 昨年

ワールド

イスラエルの格付け据え置き、見通しネガティブ=ムー
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:岸田のホンネ
特集:岸田のホンネ
2024年5月14日号(5/ 8発売)

金正恩会談、台湾有事、円安・インフレの出口......岸田首相がニューズウィーク単独取材で語った「次の日本」

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 2

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 3

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国の研究チームが開発した「第3のダイヤモンド合成法」の意義とは?

  • 4

    地下室の排水口の中に、無数の触手を蠢かせる「謎の…

  • 5

    年金だけに頼ると貧困ライン未満の生活に...進む少子…

  • 6

    ブラッドレー歩兵戦闘車、ロシアT80戦車を撃ち抜く「…

  • 7

    横から見れば裸...英歌手のメットガラ衣装に「カーテ…

  • 8

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 9

    アメリカでなぜか人気急上昇中のメーガン妃...「ネト…

  • 10

    「終わりよければ全てよし」...日本の「締めくくりの…

  • 1

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 2

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 3

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地ジャンプスーツ」が話題に

  • 4

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋…

  • 5

    「恋人に会いたい」歌姫テイラー・スウィフト...不必…

  • 6

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 7

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 8

    ウクライナ防空の切り札「機関銃ドローン」、米追加…

  • 9

    日本の10代は「スマホだけ」しか使いこなせない

  • 10

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 4

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 5

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中