最新記事

資源

トランプが怯える中国通商交渉の切り札 代替供給国なきレアアース

2019年5月27日(月)15時30分

5月22日、レアアース(希土類)は、iPhone(アイフォーン)や電気自動車(EV)のモーターなどの消費財から、軍用機のジェットエンジンや人工衛星、レーザーに至るまで、幅広い製品に使われている。写真は2010年10月、内モンゴル自治区の工場で精製されるランタン(2019年 ロイター/David Gray)

レアアース(希土類)は、iPhone(アイフォーン)や電気自動車(EV)のモーターなどの消費財から、軍用機のジェットエンジンや人工衛星、レーザーに至るまで、幅広い製品に使われている。

貿易問題を巡って米国との緊張が高まっていることを受け、最大の供給国である中国が、レアアースを交渉材料に使うのではないかとの懸念が出ている。

●レアアースは何に使われているのか

レアアースは、EVやハイブリッド車の蓄電池のほか、最先端のセラミック、コンピュータ、DVDプレーヤー、風力タービン、自動車用や石油精製所向けの触媒、モニター、テレビ、照明、レーザー、光ファイバー、超電導体、そしてガラス研磨剤に使われている。

ネオジムやジスプロシウムなど数種類のレアアースは、EVのモーターに不可欠だ。

●レアアースの軍事使用

ジェットエンジンやミサイル誘導装置、ミサイル防衛システムや人工衛星、そしてレーザーなどの軍事装備に欠かせないレアアースもある。

その1つであるランタンは、暗視装置の製造に必要となる。

米会計検査院の2016年の報告書によると、米国のレアアース需要は世界全体の9%。そのうち米国防総省の需要は1%を占める。

●中国の供給に依存している企業は

防衛大手の米レイセオンやロッキード・マーチン、英BAEシステムズは、いずれも最新鋭のミサイルを手がけ、その誘導装置やセンサーにレアアースを使っている。3社とも、ロイターのコメントの求めに応じなかった。

米アップルは、スピーカーやカメラ、さらにハプティック(触覚)と呼ばれるスマートフォンを振動させる技術にレアアースを使っている。同社によると、1台あたりの使用量はごくわずかで、取り出すのが難しく、一般的なリサイクル業者からは入手できないとしている。

2010年以降、米政府や企業はレアアースやそれを使用する部品の在庫を増やしていると、かつて国防総省で調達を担当し、現在はノートルダム大で教えるユージーン・ゴルツ氏は言う。

同氏によると、一部サプライヤーはレアアースの使用量を減らしている。

●レアアースとは何か。どこにあるのか

レアアースとは、ランタン、セリウム、プラセオジム、ネオジム、プロメチウム、サマリウム、ユウロピウム、ガドリニウム、テルビウム、ジスプロシウム、ホルミウム、エルビウム、ツリウム、イッテルビウム、ルテチウム、スカンジウム、イットリウムの計17元素の総称。地球の地殻中に存在する。

レア(稀な)という名前だが、実際は一定の埋蔵量がある。しかし、その採掘とクリーンな精製にはコストがかかる。

中国は世界の精製能力の大半を有しており、2014-17年に米国が輸入したレアアースの80%が中国産だった。米地質調査所のデータによると、中国は2017年、世界のレアアースの81%を生産した。

レアアースを輸入する各国は、2010年に起きた日本と中国の対立を受けて、消費量と中国依存を減らそうとしているが、その取り組みは限定的だ。日本は同年、中国が政治的な理由からレアアースの輸出を止めたと指摘。単一の供給国に依存することへの警戒感が世界に広がった。中国側は、輸出を停止したとの指摘を否定している。

世界のレアアース埋蔵量の37%を占める中国と競争できる代替供給国はほとんどない。

カリフォルニア州のマウンテン・パス鉱山は、米国で操業している唯一のレアアース採掘施設だ。だが、同鉱山を所有するMPマテリアルズは、掘り出した年間約5万トンのレアアースを精製のため中国に輸送している。中国は今回の貿易戦争で、こうした「輸入品」に25%の関税をかけた。

オーストラリアのライナスは今週、米テキサス州のブルーライン社との間で、米国でレアアース精製施設を建設する覚書を交わしたと発表した。

レアアースは他に、インドや南アフリカ、カナダ、オーストラリア、エストニア、マレーシア、ブラジルで採掘されている。

●米国の関税措置はレアアースにどう影響するか

これまでのところ、米政府はレアアースを関税対象の中国製品から外している。

●中国依存を減らすには

複数の米上院議員は今月、国内供給の拡大を後押しする法案を提出した。

リサイクルも、新たな可能性として浮上している。ネブラスカ州の企業レアアース・ソルツは、古い蛍光灯をリサイクルし、蛍光管の20%を占めるレアアースを回収しているという。

(翻訳:山口香子、編集:久保信博)

[ワシントン 22日 ロイター]


トムソンロイター・ジャパン

Copyright (C) 2019トムソンロイター・ジャパン(株)記事の無断転用を禁じます

20240521issue_cover150.jpg
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2024年5月21日号(5月14日発売)は「インドのヒント」特集。[モディ首相独占取材]矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディの言葉にあり

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

北朝鮮の金総書記、新誘導技術搭載の弾道ミサイル実験

ワールド

アフガン中部で銃撃、外国人ら4人死亡 3人はスペイ

ビジネス

ユーロ圏インフレ率、25年に2%目標まで低下へ=E

ビジネス

米国株式市場=ダウ終値で初の4万ドル台、利下げ観測
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 2

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた異常」...「極めて重要な発見」とは?

  • 3

    存在するはずのない系外惑星「ハルラ」をめぐる謎、さらに深まる

  • 4

    「円安を憂う声」は早晩消えていく

  • 5

    中国のホテルで「麻酔」を打たれ、体を「ギプスで固…

  • 6

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 7

    無名コメディアンによる狂気ドラマ『私のトナカイち…

  • 8

    他人から非難された...そんな時「釈迦牟尼の出した答…

  • 9

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバ…

  • 10

    チャールズ英国王、自身の「不気味」な肖像画を見た…

  • 1

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 2

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 3

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 4

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 5

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 6

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 7

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々…

  • 8

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋…

  • 9

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 10

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中