最新記事

ルワンダ

コフィ・アナン負の遺産──国連はなぜルワンダ虐殺を止められなかったのか?

2018年8月27日(月)16時00分
米川正子(立教大学特定課題研究員、コンゴの性暴力と紛争を考える会の代表)

実はアナン氏の訪問の2か月前に、クリントン大統領夫妻がルワンダを訪問したのだが、その時はアナン氏と異なり、温かく歓迎された。セバレンジ議長曰く、その背景と理由は下記の通りである。クリントン氏がアメリカ合衆国の大統領として、ルワンダへの軍の派遣に関わっていたら、他国も後に続いた可能性があるため、クリントンの方が責められるべきであった。しかし、クリントン大統領への批判はただアメリカを遠ざけるだけで、何百万ドルもの支援を危うくさせた。

その一方で、ガーナ出身のアナン氏は大国の人間と異なり、ルワンダを支援するにあたって権限がなく、できることは、他国の支援をお願いすることしかなかった。ルワンダ政府として、ジェノサイドへの国際社会の介入を放棄した責任を彼に担がせ、罪を負わせたかったのだった。

さらに追加すると、ルワンダ政府(RPF)はジェノサイドに関わっていたにもかかわらず、その事実を隠し、その責任を転嫁するために国連を都合よく使用(悪用)したとも言える。

故人を惜しみつつ、将来、ジェノサイドのような残虐行為が繰り返されないためにも、改めてルワンダのジェノサイドにおける国連の責任の検証を提言したい。

<参考文献>
コフィ・アナン & ネイダー・ムザヴィザドゥ (著)、 白戸純 (訳)『介入のとき――コフィ・アナン回顧録』(上・下) 2016年
ジョセフ セバレンジ&ラウラ・アン ムラネ (著)、米川正子 (訳)『ルワンダ・ジェノサイド生存者の証言―憎しみから赦しと和解へ』2015年
Dallaire, Romeo. Shake Hands With The Devil: The Failure of Humanity in Rwanda, 2005.
Des Forges, Alison. Leave None to Tell the Story: Genocide in Rwanda, Human Rights Watch, 1999
Guichaoua, André (著)、Wesster, Don E. (訳)、From War to Genocide: Criminal Politics in Rwanda 1990-1994 , 2017
Onana, Charles. Les secrets de la justice internationale : Enquêtes truquées sur le génocide rwandais, 2005
Rwandan Patriotic Front, "Statement by the Political Bureau of the Rwandan Patriotic Front on the Proposed Deployment of a U.N. Intervention Force in Rwanda," April 30, 1994.
Rudasingwa, Theogene. Healing A Nation: A Testimony: Waging And Winning A Peaceful Revolution To Unite And Heal A Broken Rwanda, 2013
Ruzibiza, Abdul J. Rwanda l'histoire secrete, 2005.
United Nations Security Council, Report of the Secretary-General on the United Nations Assistance Mission to Rwanda, S/1995/457, 4 June 1995

yonekawa161018-2.jpg[執筆者]
米川正子
立教大学特定課題研究員、コンゴの性暴力と紛争を考える会の代表。
国連ボランティアで活動後、UNHCR(国連難民高等弁務官事務所)では、ルワンダ、ケニア、コンゴ民主共和国、スーダン、コンゴ共和国、ジュネーブ本部などで勤務。コンゴ民主共和国のゴマ事務所長を歴任。専門分野は紛争と平和、人道支援、難民。著書に『世界最悪の紛争「コンゴ」~平和以外に何でもある国』(創成社、2010 年)など。

ニューズウィーク日本版 英語で学ぶ国際ニュース超入門
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年5月6日/13日号(4月30日発売)は「英語で学ぶ 国際ニュース超入門」特集。トランプ2.0/関税大戦争/ウクライナ和平/中国・台湾有事/北朝鮮/韓国新大統領……etc.

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ政権、予算教書を公表 国防以外で1630億

ビジネス

NY外為市場=ドル下落、堅調な雇用統計受け下げ幅縮

ワールド

トランプ氏誕生日に軍事パレード、6月14日 陸軍2

ワールド

トランプ氏、ハーバード大の免税資格剥奪を再表明 民
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得る? JAXA宇宙研・藤本正樹所長にとことん聞いてみた
  • 2
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 3
    日々、「幸せを実感する」生活は、実はこんなに簡単に作れる...カギを握る「2時間」の使い方
  • 4
    インドとパキスタンの戦力比と核使用の危険度
  • 5
    目を「飛ばす特技」でギネス世界記録に...ウルグアイ…
  • 6
    宇宙からしか見えない日食、NASAの観測衛星が撮影に…
  • 7
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 8
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が…
  • 9
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 10
    金を爆買いする中国のアメリカ離れ
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 5
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 6
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 7
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来…
  • 8
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が…
  • 9
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 10
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 9
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
  • 10
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中