最新記事

「日本すごい」に異議あり!

「下町ボブスレー」が浮き彫りにした、日本の職人技の誇りとおごり

2018年6月8日(金)15時40分
森田浩之(ジャーナリスト)

「下町ボブスレー」は平昌五輪では使われなかった(写真は競技に参加するジャマイカ女子代表) Edgar Su-REUTERS

<町工場が結集して五輪を目指す計画の失敗が、不相応なほど大きなニュースになった理由>

下町の職人たちの夢は今回もかなわなかった......。ジャマイカの人たちとは運命共同体で頑張っていこうと約束したはず......。

「下町ボブスレー」をご記憶だろうか。これは東京・大田区にある町工場の有志が始めたプロジェクト。下町の職人の技術でボブスレーを作り、世界に挑もうというものだ。2月の平昌五輪では、ジャマイカの女子代表が下町ボブスレーを使うことになっていた。

だがジャマイカ側は大会直前に、下町のそりを使わないと通告。この件が妙に大きなニュースとなる。冒頭の言葉は、その際に新聞で見られた表現だ。

用具の採用が見送られただけの話なのに、「夢」「運命共同体」など情緒的な言葉が付いて回る。話が膨らみ過ぎている印象がある。下町ボブスレーの騒ぎは、「日本すごい」というゆがんだ空気にもつながっていそうだ。

下町ボブスレーのプロジェクトは11年に始動。14年のソチ五輪では、日本代表に採用を見送られた。外国チームに働き掛けたなかで好反応を示したのが、南国のジャマイカ。16年、ジャマイカは下町ボブスレーの採用を決め、職人の技と魂が実を結ぶかに見えた。

事態は平昌五輪の直前に急展開する。昨年12月のワールドカップで輸送機関のストで下町ボブスレーの配送が遅れ、ジャマイカはラトビア製のそりを使った。すると成績が一気に上がった。

ジャマイカは、そのままラトビア製を使用して五輪出場権を獲得。開幕直前になって、五輪では下町ボブスレーを使わないと通告してきた。下町側には大きなショックが走った......。

この騒ぎには引っ掛かる点がいくつかある。まず「ジャマイカ」だ。なぜ支援した相手が冬季五輪とは縁遠いイメージのある南国だったのか。

ジャマイカは、冬のスポーツでは勝ち目のない「アンダードッグ」だ。好成績はあまり期待されておらず、五輪に出場しただけで話題になる。

そのアンダードッグを日本の職人の技が支援するという物語が、ここには透けて見える。そしてアンダードッグだからこそ、下町のそりの不採用は一層大きな騒ぎになったのではないか。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

街角景気10月現状判断DIは2.0ポイント上昇の4

ワールド

タイ、カンボジアとの停戦合意履行を停止へ 国防相が

ワールド

27年のCOP32開催国、エチオピアに決定へ=CO

ビジネス

米ボーイング、777X認証試験の次フェーズ開始承認
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界最高の投手
特集:世界最高の投手
2025年11月18日号(11/11発売)

日本最高の投手がMLB最高の投手に──。全米が驚愕した山本由伸の投球と大谷・佐々木の活躍

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ドジャースの「救世主」となったロハスの「渾身の一撃」は、キケの一言から生まれた
  • 2
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評家たちのレビューは「一方に傾いている」
  • 3
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 4
    コロンビアに出現した「謎の球体」はUFOか? 地球外…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    インスタントラーメンが脳に悪影響? 米研究が示す「…
  • 7
    中年男性と若い女性が「スタバの限定カップ」を取り…
  • 8
    「座席に体が収まらない...」飛行機で嘆く「身長216c…
  • 9
    レイ・ダリオが語る「米国経済の危険な構造」:生産…
  • 10
    「爆発の瞬間、炎の中に消えた」...UPS機墜落映像が…
  • 1
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 2
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 3
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 4
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 5
    「座席に体が収まらない...」飛行機で嘆く「身長216c…
  • 6
    ドジャースの「救世主」となったロハスの「渾身の一…
  • 7
    「遺体は原型をとどめていなかった」 韓国に憧れた2…
  • 8
    筋肉を鍛えるのは「食事法」ではなく「規則」だった.…
  • 9
    「路上でセクハラ」...メキシコ・シェインバウム大統…
  • 10
    クマと遭遇したら何をすべきか――北海道80年の記録が…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 6
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 7
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 8
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 9
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 10
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中