最新記事

朝鮮半島

日本外しを始めた北朝鮮──日朝首脳会談模索は最悪のタイミング

2018年3月23日(金)17時00分
遠藤誉(東京福祉大学国際交流センター長)

そのような状況下で日本が今さら日朝首脳会談を模索するようなことをすれば、必ず北朝鮮に足元を見られ、首脳会談が実現した暁には、巨額の戦後賠償を日本に要求してくることは目に見えている。

北朝鮮が慰安婦問題の動画や写真を多用して日本批判を始めたのが、何よりの証拠だ。そして慰安婦カードは中国にとって、北が使おうと南が使おうと、いずれにしても都合のいいカードで、南北朝鮮は慰安婦カードを使うことによって中国を喜ばせているのである。

なお、「アメリカの制裁が効いたので、北朝鮮が話し合いに応じるようになった」と言ったのは文在寅大統領である。北朝鮮を平昌冬季五輪に招聘したいという意思表明をした時にトランプが理解を示してくれるよう、トランプへのおべっかとして、保身のために発した言葉だ。しかしそのおべっかを大変気に入ったトランプはその後、盛んに「圧力が効いたから北朝鮮が折れてきた」と言うことによって面子を保つことができるようになり、一気に融和モードへと舵を切るようになったのである。心の底には、そのチャンスを待っていたという心理要素があったにちがいない。

いずれにせよ、ことここに至って、ようやく「対話」を言い始め、ましてや韓国政府を使って日本に日朝首脳会談の意思があることを伝えるなどは、最悪のシナリオをさらに悪化させるようなものだ。

習近平政権側は少なくとも、自ら進んで中朝首脳会談を開催して下さいなどとは言っていない。黙って時期を待っている。北朝鮮が唯一の軍事同盟国であり、北朝鮮の主たる原油を握っている隣接国、中国に配慮せずに動くことはあり得ないのを知っているからだ。現にこのたび習近平が国家主席に再任されたことに対して金正恩は祝電を送っている。その文面は、「習近平新時代」の思惑のキーポイントをしっかりつかんでいることを窺わせる。中国を「1000年の宿敵」と非難しながら、結局、社会主義体制は水面下で結ばれている。元社会主義国家の巨頭であったロシアもまた然り。

日本はもっと毅然とした独自の外交戦略を持つことを心掛けないと、中国だけでなく、北朝鮮にまで舐められてしまう。それは日本に必ず大きな不利益をもたらす。注意を喚起したい。


endo-progile.jpg[執筆者]遠藤 誉
1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。東京福祉大学国際交流センター長、筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会科学研究所客員研究員・教授などを歴任。著書に『習近平vs.トランプ 世界を制するのは誰か』(飛鳥新社)『毛沢東 日本軍と共謀した男』(中文版も)『チャイナ・セブン <紅い皇帝>習近平』『チャイナ・ナイン 中国を動かす9人の男たち』『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』など多数。

※当記事はYahoo!ニュース 個人からの転載です。

この筆者の記事一覧はこちら≫

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

北朝鮮の金総書記、新誘導技術搭載の弾道ミサイル実験

ワールド

アフガン中部で銃撃、外国人ら4人死亡 3人はスペイ

ビジネス

ユーロ圏インフレ率、25年に2%目標まで低下へ=E

ビジネス

米国株式市場=ダウ終値で初の4万ドル台、利下げ観測
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 2

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた異常」...「極めて重要な発見」とは?

  • 3

    存在するはずのない系外惑星「ハルラ」をめぐる謎、さらに深まる

  • 4

    「円安を憂う声」は早晩消えていく

  • 5

    中国のホテルで「麻酔」を打たれ、体を「ギプスで固…

  • 6

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 7

    無名コメディアンによる狂気ドラマ『私のトナカイち…

  • 8

    他人から非難された...そんな時「釈迦牟尼の出した答…

  • 9

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバ…

  • 10

    チャールズ英国王、自身の「不気味」な肖像画を見た…

  • 1

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 2

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 3

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 4

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 5

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 6

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 7

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々…

  • 8

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋…

  • 9

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 10

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中