最新記事

アメリカ社会

アメリカ企業でセクハラが続く理由

2017年11月15日(水)16時00分
マーク・ジョセフ・スターン

Illustration by iStock.

<ハリウッドだけの問題ではない。女性蔑視的な文化を背景に、法律の不備が被害者に泣き寝入りを迫る>

アメリカでは職場でのセクシュアル・ハラスメント(性的嫌がらせ)は違法行為だ。そう定める法律ができたのは半世紀以上も前だが、セクハラは一向になくならない。

セクハラで告発されるのはハリウッドの大物プロデューサー、ハービー・ワインスティーンのような有名人ばかりではない。雇用機会均等委員会(EEOC)が16会計年度に受理したセクハラ被害の申し立ては7000件近い。加えて州当局に寄せられる苦情も何千件とある。

言うまでもなく、告発されるケースは氷山の一角だ。職場でセクハラに遭う被害者の圧倒的多数は女性だが、彼女たちのざっと4人に3人は泣き寝入りをすると、EEOCはみている。

泣き寝入りが多いのは、性差別を禁じた法律が裁判所の解釈で骨抜きにされてきたため。そして、アメリカ社会の隅々にはびこる女性蔑視的な風潮のせいでもある。勇気を出して苦情を申し立てても法的なハードルがあまりに高く、訴えを退けられるケースが多い。こうした状況はいくらでも改善できるが、議会も企業もまともにこの問題に取り組もうとしない。

公民権運動の高まりを受けて64年に成立した公民権法。その第7編には人種や宗教による差別と並んで、「性に基づく」雇用差別の禁止が明確にうたわれている。この規定の執行機関として設置されたEEOCが、当人に代わって連邦裁判所に提訴する権限を持つようになったのは、72年に雇用機会均等法が成立してから。以後、性差別事案も裁判で取り上げられるようになったが、当初は採用や待遇面での差別が問題になっただけで、セクハラ訴訟は皆無だった。

首都ワシントンに本部を置く連邦巡回区控訴裁判所が、職場でのセクハラを違法とする判決を初めて下したのは77年。「代償型セクハラ」(採用や昇進の条件として性的関係を迫る)は、明らかに雇用差別に当たるという判断だった。

EEOCは80年、この解釈を一歩進めて「環境型セクハラ」(体を触ったり、セクハラ発言を繰り返したりして、職場環境を相手にとって耐え難いものにする)も雇用差別に該当するという判断を示した。連邦最高裁判所は86年、この2つのタイプのセクハラを違法行為と認める判決を下した。

形だけの調査で責任逃れ

それでもなお重要な問題が残されていた。職場のセクハラに対して、雇用主(企業)の賠償責任が問われるのはどのような場合かということだ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ナワリヌイ氏殺害、プーチン氏は命じず 米当局分析=

ビジネス

アングル:最高値のビットコイン、環境負荷論争も白熱

ビジネス

決算に厳しい目、FOMCは無風か=今週の米株式市場

ビジネス

中国工業部門企業利益、1─3月は4.3%増に鈍化 
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われた、史上初の「ドッグファイト」動画を米軍が公開

  • 3

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 4

    目の前の子の「お尻」に...! 真剣なバレエの練習中…

  • 5

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 6

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 7

    美女モデルの人魚姫風「貝殻ドレス」、お腹の部分に…

  • 8

    19世紀イタリア、全世界を巻き込んだ論争『エドガル…

  • 9

    「気持ち悪い」「恥ずかしい...」ジェニファー・ロペ…

  • 10

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 6

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 7

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 8

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 9

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 10

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 3

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 4

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 5

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 6

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 10

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中