最新記事

ドキュメンタリー

ロシアのドーピング疑惑を暴く、ネットフリックス配信ドキュメンタリー

2017年9月13日(水)10時45分
スタブ・ジブ

そこでロドチェンコフは、ニューヨーク・タイムズ紙のインタビューを受ける決意をする。この中で、ソチ五輪のとき、陽性の尿を陰性の尿とすり替えた手法も具体的に明かした。ユーリ・ナゴルニフ副スポーツ相やムトコ、プーチンが計画に関与していたことも明言した。

「ロドチェンコフは自責の念に駆られていた」と、フォーゲルは振り返る。ロシアはソチで、どの国よりも多い33個のメダルを獲得した。これによりプーチンの支持が急上昇したことと、その後のロシアのウクライナ侵攻に、ロドチェンコフは直線的なつながりを感じていた。

【参考記事】この男、プーチン大統領が「中東の盟主」になる日

ほろ苦いエンディング

16年5月にニューヨーク・タイムズの記事が出ると、WADAは新たな独立調査を開始した。2カ月後に、ロシア選手のドーピングはスポーツ省が中心となり、ロシア連邦保安局(FSB)や、モスクワとソチの検査所が積極的に関与していたとの調査結果を発表。数週間後に迫っていたリオ夏季五輪からロシア選手の締め出しを勧告した。

それでもロシアは疑惑を否定する姿勢を貫き、IOC(国際オリンピック委員会)も、ロシア選手の全面的な出場禁止処分は見送ることを決めた。

「十分な証拠に基づき不正が100%立証されたのに、変化は起きなかった」とフォーゲルは肩を落とす。「ロシアは絶対に不正を認めなかった。IOCも、オリンピックの理念を散々主張してきたのに、責任ある行動を取らなかった。一番損をしたのは真実を語ったグリゴリーだ」

『イカロス』のエンディングは、ほろ苦い。ロドチェンコフは16年7月に米政府の証人保護プログラム下に置かれることになった。現在どこでどんな名前で生活しているかは、フォーゲルにも、ロシアに残された妻と2人の子供たちにも分からない。

映画は政治の世界に踏み込まないよう注意しているが、『イカロス』を見ていると、16年米大統領選へのロシアの介入問題を思い起こさずにいられない。ロシアが介入した事実は、アメリカの情報機関によってほぼ確実とみられているが、プーチンはそれを絶対に認めない。

その断固たる否定ぶりに、フォーゲルは嫌悪感を示す。「アウシュビッツ・ビルケナウ収容所を見学した後に、相手の目を真っすぐ見て、ホロコースト(ユダヤ人虐殺)はなかったと言うようなものだ」

【お知らせ】ニューズウィーク日本版メルマガリニューアル!
 ご登録(無料)はこちらから=>>

[2017年9月12日号掲載]

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

グーグル、ドイツで過去最大の投資発表へ

ワールド

マクロスコープ:高市「会議」にリフレ派続々、財務省

ビジネス

ドイツ鉱工業生産、9月は前月比+1.3% 予想を大

ビジネス

日産、通期純損益予想を再び見送り 4━9月期は22
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 2
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 3
    虹に「極限まで近づく」とどう見える?...小型機パイロットが撮影した「幻想的な光景」がSNSで話題に
  • 4
    NY市長に「社会主義」候補当選、マムダニ・ショック…
  • 5
    「なんだコイツ!」網戸の工事中に「まさかの巨大生…
  • 6
    カナダ、インドからの留学申請74%を却下...大幅上昇…
  • 7
    もはや大卒に何の意味が? 借金して大学を出ても「商…
  • 8
    約500年続く和菓子屋の虎屋がハーバード大でも注目..…
  • 9
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 10
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 3
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読み方は?
  • 4
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 5
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 6
    9歳女児が行方不明...失踪直前、防犯カメラに映った…
  • 7
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 8
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「…
  • 9
    女性の後を毎晩つけてくるストーカー...1週間後、雨…
  • 10
    だまされやすい詐欺メールTOP3を専門家が解説
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 7
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 10
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中