最新記事

中国社会

劉暁波の苦難は自業自得? 反体制派が冷笑を浴びる国

2017年7月16日(日)07時20分
ジェームズ・パーマー(フォーリン・ポリシー誌アジアエディター)

「一線を越えるな」という教訓

従って中国政府は、劉のようにあからさまに体制を批判する人々については、話題にすることも比較的容認する。服役中の劉がノーベル平和賞を受賞したときも、政府の報道統制による1週間の沈黙を挟んで、中国メディアは一斉に受賞決定を非難した。

劉のような人物は、格好の教訓になる。一線を越えれば破滅する、それは自分の責任なのだ。一線を越えたらどうなるかは明白だが、問題は、不注意で越えてしまうまで危険なラインが分かりにくいことだ。

私の友人のおじは建設会社を経営していたが、ある入札で、素性も知らず競合した相手が実は、地元の役人とマフィアが関わる会社だった。彼は誘拐されて工事中のビルの屋上に連れて行かれ、両脚を切り落とされ、放置されて出血多量で死亡した。彼の兄は冤罪で逮捕された。

中国では、国家にとって不都合なタイミングで不都合な場所にいたというだけの理由で、市民はとてつもないダメージを被る。そのような行為は、政府にとって最も危険な不正なのだ。

市民が無関心から目覚めることができるとしたら、歯に衣着せぬ活動家ではなく、普通の犠牲者によって突き動かされたときだ。従って、当局とのありふれた衝突が悲劇に発展した事件の多くは、国内で報道が許されるのは一瞬だけ。事件直後に注目を集めた後は、 議論にさえできなくなる。

一方で、政治的糾弾のプロセスは大々的に宣伝される。例えば、中国政府は13年に、盛り上がり始めたオンライン社会を抑圧すると決めた。そして、中国版マイクロブログ新浪微博(シンランウェイボー)の有名ブロガーだった薜必群(シュエ・ビーチュン)が買春容疑で逮捕され、ブログで人々を扇動した「罪」を自白する姿がテレビの生放送でさらされた。

番組を見た後、知的でリベラルな中国人女性の同僚が私に言った。「彼は警告を受けていたはずよ」

気功集団の法輪功が弾圧を受け始めた頃も、最初は多くの市民が同情的だった。しかし、創設者や幹部が国との対立姿勢を強め、99年に大勢の信者が北京の役所を取り囲む事件が起きると、共感は消え去った。

中国には昔から、人間の運命は現在ではなく過去の罪によって決まるという考え方がある。劉はかつて、中国は「300年間の植民地支配」を経て、ようやく香港と同じくらい文明化されるだろうと書いた。アメリカの対テロ戦争に繰り返し支持を表明し、時には欧米の欠点にあえて目をつぶった。

中国の多くの知識人は、このような過去の言動を引き合いに出して彼を非難した。しかし、大胆な発言や純粋な姿勢が、なぜ長年の迫害と懲役を正当化する理由になるのかは、誰も説明しなかった。誰かを批判して、その口実が見つかれば、自分は安らかな気持ちでいられる。

【参考記事】辛口風刺画・中国的本音:死の淵に立っても劉暁波を容赦しない「人でなし」共産党

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

午後3時のドルは156円前半でほぼ横ばい、日銀早期

ビジネス

中国万科の社債急落、政府支援巡り懸念再燃 上場債売

ワールド

台湾が国防費400億ドル増額へ、33年までに 防衛

ビジネス

インフレ基調指標、10月の刈り込み平均値は前年比2
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ガザの叫びを聞け
特集:ガザの叫びを聞け
2025年12月 2日号(11/26発売)

「天井なき監獄」を生きるパレスチナ自治区ガザの若者たちが世界に向けて発信した10年の記録

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 2
    【銘柄】イオンの株価が2倍に。かつての優待株はなぜ成長株へ転生できたのか
  • 3
    老後資金は「ためる」より「使う」へ──50代からの後悔しない人生後半のマネープラン
  • 4
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファ…
  • 5
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 6
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 7
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネ…
  • 8
    放置されていた、恐竜の「ゲロ」の化石...そこに眠っ…
  • 9
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 10
    7歳の娘の「スマホの検索履歴」で見つかった「衝撃の…
  • 1
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 2
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判殺到、そもそも「実写化が早すぎる」との声も
  • 3
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 4
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネ…
  • 7
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 8
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 9
    海外の空港でトイレに入った女性が見た、驚きの「ナ…
  • 10
    【銘柄】イオンの株価が2倍に。かつての優待株はなぜ…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 6
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 7
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 8
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦…
  • 9
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 10
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中