最新記事

脳科学

なぜ人間は予測できない(一部の)サプライズを喜ぶのか

2017年6月21日(水)21時15分
ニューズウィーク日本版ウェブ編集部

 もしもあらゆる驚きが生物学的に悪いとすれば、一部の驚きが喜ばれるのはなぜだろう。結局のところクリネックスのケアキットを受け取った人たちは、予測できなかった経験を楽しんでいるではないか。私は認知学者のデイヴィッド・ヒューロンから、クライアントにつぎの質問をしてみるように勧められた。「最も重要な目標に到達できる日にちを正確に知ることができるとしたら、教えられるほうを選びますか?」という質問だが、ほとんどのクライアントからノーという答えが返ってきた。人生においては、不確実で意外な経験が喜びの源になっているケースもあるのだ。たしかに予言は喜びの源だが、あまりにも確実性が高い人生では喜びが薄れてしまう。

 すべての驚きが最初は悪者扱いされるのであれば、たとえ意識にのぼらなくても、驚きは不安やストレスを引き起こすことになる。私たちが不安やストレスを経験するときには、体内でエンドルフィンなどの鎮静剤が放出されて、予測される痛みに対抗する準備が整うため、必要とあれば行動を起こして戦うことができる。実際のところ驚きのほとんどは誤認警報なのだが、それでも鎮静剤は放出され続ける。そうなると戦うために鎮静剤は必要とされないが、鎮静剤が引き起こす効果を楽しむことができる。

 どうやら人間は生物学的なパラドックスに直面しているようだ。私たちは正確な予測を好む一方、若干の驚きを楽しんでいる。では、予測可能であると同時に意外性のあるものを、聞き手のために作り出すことはできるだろうか。この質問に答えるためにはまず、人間の脳がどのように予測を行ない、何が意外な要素として見られるのか、その仕組みについて学ばなければならない。

※第4回:I'm loving itからI'll be backまで、あの言葉はなぜ記憶に残るのか


『人は記憶で動く――相手に覚えさえ、思い出させ、
 行動させるための「キュー」の出し方』
 カーメン・サイモン 著
 小坂恵理 訳
 CCCメディアハウス

【お知らせ】ニューズウィーク日本版メルマガリニューアル!
 ご登録(無料)はこちらから=>>

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

NY外為市場=円が軟化、介入警戒続く

ビジネス

米国株式市場=横ばい、AI・貴金属関連が高い

ワールド

米航空会社、北東部の暴風雪警報で1000便超欠航

ワールド

ゼレンスキー氏は「私が承認するまで何もできない」=
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 4
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 5
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 6
    「衣装がしょぼすぎ...」ノーラン監督・最新作の予告…
  • 7
    中国、米艦攻撃ミサイル能力を強化 米本土と日本が…
  • 8
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「…
  • 9
    【世界を変える「透視」技術】数学の天才が開発...癌…
  • 10
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツよりコンビニで買えるコレ
  • 4
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 5
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 6
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低…
  • 7
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 8
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 9
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 10
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 6
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 7
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 8
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 9
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 10
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中