最新記事

デザイン

この赤い丸がグラフィック・デザインの力、と原研哉は言う

2017年6月15日(木)19時40分
ニューズウィーク日本版ウェブ編集部

緑地に赤い風船のインパクトの強い表紙を開くと、白地に細い黒線と赤い色面の絵が流れるように展開する。イエラ・マリ作『あかいふうせん』を取り上げた『Pen Books 名作の100年 グラフィックの天才たち。』のページ

<グラフィック・デザインとは何か。デザイン界の第一人者、原研哉に聞いた>

デザインとは何か? グラフィック・デザインとは何か? そう聞かれてすぐに答えられる人はあまり多くないだろう。

しかし今日、デザインの重要性は格段に増している。グラフィック・デザインとは何で、どのような役割を担っているのか。表現手段が多様化する今だからこそ、1枚の平面の"伝える力"について、知っておいて損はない。

デザイン界の第一人者である原 研哉氏によれば、グラフィック・デザインの特徴は「静止していること」。現実の世界は何もかもが動いているが、それを静止させて、人とビジュアルコミュニケーションを取るためのものだという。

Pen BOOKS 名作の100年 グラフィックの天才たち。』(ペン編集部・編、CCCメディアハウス)の中で原氏は、「簡潔」「タイポグラフィ」「写真」という3つの面からグラフィック・デザインの魅力を語っている。例えば「簡潔」については、日の丸の国旗や『あかいふうせん』という絵本を題材に「単純化された図像の多義性」について説明する、といった具合だ。

原 研哉氏の「グラフィック論」に加え、大阪芸術大学・三木 健教授の人気講義「APPLE」、そして何より、20世紀の巨匠から現在活躍中のクリエイターまで、知っておくべき天才たちの思想と作品を紹介した本書から、一部を抜粋し、4回に分けて転載する。

第1回は「デザイン界の第一人者、原 研哉に聞く、グラフィックの力と使命。」より、「簡潔」についての原氏の寄稿を抜粋する。

◇ ◇ ◇

 

簡潔だからこそ、見る者が思いを乗せられるんです。

 世の中にはいろいろな形のデザインが存在しますが、中でもグラフィック・デザインの特徴を挙げるとすれば、それは「静止している」こと。現実の世界というのは、何もかもが動いています。それを静止させて、人とビジュアルコミュニケーションをとる、そこにエネルギーを使っているのがグラフィック・デザイナーなのだと思います。

 グラフィックがどうやって人の注目を集め、感動に導くかを私もずっと考え続けています。その中でも私が学生時代から心を動かされ続けているいくつかの作品を紹介しながら、「簡潔」「タイポグラフィ」「写真」という3つの面でグラフィック・デザインの魅力についてお話しします。

「簡潔」。これは、私が考えるグラフィックの根底に流れている精神のひとつであり、「エンプティネス」という言葉を用いて説明しているものでもあります。「空っぽ」ということなんですが、それは「無」ではなくて見る人や時代によって、それぞれの意味が盛り込まれるということです。

 極端な例でいえば「日の丸」の国旗。あれはグラフィック・デザインの典型的なものといえるでしょう。白地に赤い円が描かれているだけで、時にそれは国家を指し、太陽を指し、戦争などで用いられる時には血のイメージとなる。現代の私たちが見たら、平和の象徴と見えるかもしれない。しかし、図像そのものには意味なんてありません。静止した簡素簡潔で抽象化された図像の上には、いろんな人の思いを乗せることができる。それが、シンボルマークがもつ原初的な力なのだと思います。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米国株式市場=小反発、ナスダック最高値 決算シーズ

ワールド

トランプ氏、ウクライナ兵器提供表明 50日以内の和

ワールド

ウへのパトリオットミサイル移転、数日・週間以内に決

ワールド

トランプ氏、ウクライナにパトリオット供与表明 対ロ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:AIの6原則
特集:AIの6原則
2025年7月22日号(7/15発売)

加速度的に普及する人工知能に見えた「限界」。仕事・学習で最適化する6つのルールとは?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「史上最も高価な昼寝」ウィンブルドン屈指の熱戦中にまさかの居眠り...その姿がばっちり撮られた大物セレブとは?
  • 2
    真っ赤に染まった夜空...ロシア軍の「ドローン700機」に襲撃されたキーウ、大爆発の瞬間を捉えた「衝撃映像」
  • 3
    どの学部の卒業生が「最も稼いでいる」のか? 学位別「年収ランキング」を発表
  • 4
    エリザベス女王が「うまくいっていない」と心配して…
  • 5
    「お腹が空いていたんだね...」 野良の子ネコの「首…
  • 6
    【クイズ】次のうち、生物学的に「本当に存在する」…
  • 7
    千葉県の元市長、「年収3倍」等に惹かれ、国政に打っ…
  • 8
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップ…
  • 9
    イギリスの鉄道、東京メトロが運営したらどうなる?
  • 10
    日本より危険な中国の不動産バブル崩壊...目先の成長…
  • 1
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップを極めれば、筋トレは「ほぼ完成」する
  • 2
    「弟ができた!」ゴールデンレトリバーの初対面に、ネットが感動の渦
  • 3
    「お腹が空いていたんだね...」 野良の子ネコの「首」に予想外のものが...救出劇が話題
  • 4
    日本企業の「夢の電池」技術を中国スパイが流出...AP…
  • 5
    千葉県の元市長、「年収3倍」等に惹かれ、国政に打っ…
  • 6
    どの学部の卒業生が「最も稼いでいる」のか? 学位別…
  • 7
    イギリスの鉄道、東京メトロが運営したらどうなる?
  • 8
    エリザベス女王が「うまくいっていない」と心配して…
  • 9
    完璧な「節約ディズニーランド」...3歳の娘の夢を「…
  • 10
    トランプ関税と財政の無茶ぶりに投資家もうんざり、…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 3
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事故...「緊迫の救護シーン」を警官が記録
  • 4
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 5
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 6
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 7
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 8
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 9
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 10
    「うちの赤ちゃんは一人じゃない」母親がカメラ越し…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中