最新記事

中東

岐路に立つカタールの「二股外交」

2017年6月16日(金)10時20分
フレッド・カプラン(スレート誌コラム二スト)

突然の渡航禁止でドーハ国際航空(写真)にも混乱が広がった Maseem Mohammed Bny Huthil-REUTERS 

<事実上トランプがけしかけたアラブ主要国による対カタール断交宣言。中東はさらに不安定になる?>

オイルマネーで潤うアラブ諸国の間で、なぜ突然仲たがいが起きたのか――。サウジアラビアやアラブ首長国連邦(UAE)が先週、小国カタールとの断交を発表したとき、中東ウオッチャー以外の多くの人は、そんな疑問を抱いたに違いない。

何しろカタールと外交関係を断つだけでなく、貿易もしないし、自国民の渡航も認めない、飛行機の往来も許さない、という厳格さだ。

カタールは天然ガスの埋蔵量が世界第3位の立憲君主国。22年のサッカーW杯の開催地でもある。中東と中央アジアの一部を統括する米中央軍の基地があり、アメリカにとっては中東最大の軍事拠点だ。

サウジアラビアやUAEと同じように、カタールも国民の大多数がイスラム教スンニ派だ。サウジアラビアがイエメンで進めるシーア派武装勢力ホーシー派の討伐作戦や、シリアのバシャル・アサド大統領の退陣を求める戦いにも参加してきた。

ではなぜ、突然断交することになったのか。

実はカタールはシーア派の国であるイランや、シーア派のイスラム武装組織であるレバノンのヒズボラ、パレスチナのハマスと親しい関係を築いてきた。とりわけイランは、サウジアラビアにとって中東の盟主の地位を争う最大のライバルだ。

カタールとスンニ派諸国の摩擦は、10年ほど前から続いてきた。それが急にエスカレートした一因は、ドナルド・トランプ米大統領にあるのかもしれない。

【参考記事】国交断絶、小国カタールがここまで目の敵にされる真の理由

トランプは先月サウジアラビアを訪問したとき、スンニ派諸国の会議で演説。スンニ派とシーア派の対立で、アメリカはスンニ派を支持する態度を明確にした。どうやらトランプは、その発言が宗派抗争だけでなく、スンニ派内部の亀裂も悪化させる可能性があることに気が付かなかったようだ。

カタールが外交面で独自路線を取ってきた背景には、国家元首タミム首長の意向がある。それを可能にしてきたのが、小さな国の莫大な富だ。

カタールの人口は220万人ほどだが、その9割近くは仕事で滞在している外国人。1人当たり所得は世界でトップ3に入り、他のアラブ諸国が警戒する政治不安とも無縁だ。

10年に「アラブの春」が起きたとき、タミムは反体制運動を支持し、衛星テレビ局アルジャジーラをプロパガンダに利用した。同時にタミムは、イランにも接近し始めた。

こうした措置は合理的だと、アトランティック・カウンシル(ワシントン)のファイサル・イタリ上級研究員は語る。「カタールは自らの立場を最大限に利用して、中東政治で特別な発言力を獲得しようとした」

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

豪首相、12日から訪中 中国はFTA見直しに言及

ビジネス

ドイツ輸出、5月は予想以上の減少 米国向けが2カ月

ビジネス

旧村上ファンド系、フジ・メディアHD株を買い増し 

ワールド

赤沢再生相、米商務長官と電話協議 「自動車合意なけ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:大森元貴「言葉の力」
特集:大森元貴「言葉の力」
2025年7月15日号(7/ 8発売)

時代を映すアーティスト・大森元貴の「言葉の力」の源泉にロングインタビューで迫る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に...「曾祖母エリザベス女王の生き写し」
  • 2
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...父親も飛び込み大惨事に、一体何が起きたのか?
  • 3
    「飛行機内が臭い...」 原因はまさかの「座席の下」だった...異臭の正体にネット衝撃
  • 4
    アリ駆除用の「毒餌」に、アリが意外な方法で「反抗…
  • 5
    「ヒラリーに似すぎ」なトランプ像...ディズニー・ワ…
  • 6
    「やらかした顔」がすべてを物語る...反省中のワンコ…
  • 7
    米テキサス州洪水「大規模災害宣言」...被害の陰に「…
  • 8
    為末大×TAKUMI──2人のプロが語る「スポーツとお金」 …
  • 9
    後ろの川に...婚約成立シーンを記録したカップルの幸…
  • 10
    中国は台湾侵攻でロシアと連携する。習の一声でプー…
  • 1
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...父親も飛び込み大惨事に、一体何が起きたのか?
  • 2
    「やらかした顔」がすべてを物語る...反省中のワンコに1400万人が注目
  • 3
    後ろの川に...婚約成立シーンを記録したカップルの幸せ映像に「それどころじゃない光景」が映り込んでしまう
  • 4
    【クイズ】「宗教を捨てる人」が最も多い宗教はどれ?
  • 5
    職場でのいじめ・パワハラで自死に追いやられた21歳…
  • 6
    為末大×TAKUMI──2人のプロが語る「スポーツとお金」 …
  • 7
    「本物の強さは、股関節と脚に宿る」...伝説の「元囚…
  • 8
    「飛行機内が臭い...」 原因はまさかの「座席の下」…
  • 9
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に..…
  • 10
    アリ駆除用の「毒餌」に、アリが意外な方法で「反抗…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 3
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 4
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 5
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 6
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 7
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 8
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 9
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 10
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中