最新記事

科学

性的欲望をかきたてるものは人によってこんなに違う

2017年5月2日(火)11時55分
ニューズウィーク日本版ウェブ編集部

JLGutierrez-iStock.

<検索エンジンに打ち込まれた性的な語句のリストを見るだけでも、人の性嗜好がいかに多種多様かわかる。インターネットを情報源にした、ボストン大学の認知神経科学者2人による性的欲望の研究より>

性的欲望を生み出す脳のソフトウエアはどんなしくみになっているのか? そんな疑問を抱いたボストン大学の認知神経科学者、オギ・オーガスとサイ・ガダムは、インターネットを情報源に使って「世界最大の実験」を行い、1冊の本を世に送り出した。『性欲の科学――なぜ男は「素人」に興奮し、女は「男同士」に萌えるのか』(坂東智子訳、CCCメディアハウス)だ。

4億の検索ワード、65万人の検索履歴、数十万の官能小説、数千のロマンス小説、4万のアダルトサイト、500万件のセフレ募集投稿、数千のネット掲示板投稿――これらをデータマイニングにより分析した彼らは、読み物としても濃密な1冊に仕上げている。

ここでは本書の「第1章 大まじめにオンラインポルノを研究する――性科学と『セクシュアル・キュー』」から一部を抜粋し、3回に分けて転載する。この第2回では、第1回「性科学は1886年に誕生したが、今でもセックスは謎だらけ」の続きを。

◇ ◇ ◇

まさに、ネットはポルノのためにある

 社会心理学の世界では、1960年代から70年代にかけて、ちょっと無茶で大胆な実験が盛んに行われた。そのころの実験は、アメリカのケーブルテレビ、MTVのドッキリ番組『ジャッカス』のいたずらに近いものが多い。1971年の「スタンフォード監獄実験」では、被験者を囚人役と看守役に分け、大学の地下に作った模造監獄で生活させた。その結果、看守役はすっかり役になりきって囚人役を虐待し、囚人役たちが暴動を起こした。60年代の「ミルグラム実験」では、被験者たちに、教師役として生徒役に電気ショックを与えさせ、しかも、与えるたびに電圧を上げさせ、最終的には死の危険があるレベルまで上げさせた。1973年には、スワースモア大学の心理学者ケネス・ガーゲンが、今だったら倫理団体に非難されることうけあいの実験を行った。彼の実験は、「人は、覆面性がきわめて高い状況に置かれたら、何をやるか?」を知るためのものだった。

 実験の日、若い男女5人ずつの総勢10人の被験者が、1人ずつ小部屋に入れられた。被験者たちはお互いの素性をまったく知らず、実験の日も、部屋に入るまで1人ずつ隔離されていた。彼らは部屋に入ると、各自やりたいことをやって時を過ごした。そして実験の時間が終わると、1人ずつ部屋を出て行った。この実験を非常に興味深いものにしているのは、彼らが過ごした部屋だ。その部屋は真っ暗だったのだ。

 被験者たちには、お互いの顔が見えなかった。彼らはもともとお互いを知らなかったし、実験後もお互いの素性はわからないままだと思っていた。要するに、彼らは完全な覆面のまま、一緒の時を過ごしたのだ。ではそうした状況で、彼らは何をやったのだろうか? まずは話をした。しかし会話はすぐに途切れた。次に、触れ合いが始まった。被験者の90%近くがまわりのだれかに故意に触れ、半数以上が、まわりのだれかを抱き締めた。被験者の3分の1はキスもした。男性の被験者の1人は5人の女性にキスをした。彼はこう語っている。「座っていたら、ベスがやって来て、2人でお互いの顔を触り始めた。それからお互いの体を触った。そして抱き合ってキスをした。そうやって、お互いに愛する気持ちを表現したんだよ。僕らはその気持ちをほかの人にもお裾分けすることにした。だからベスが僕から離れ、ローリーと入れ替わった」。素性がバレることがなかったので、被験者たちは自分の性的欲望を自由に表現した。男性の被験者の1人は、お金を払ってでももう一度部屋に入りたいと、ガーゲンに申し出たという。男女とも、被験者の80%が性的興奮を覚えたと語っている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

アングル:米株式取引24時間化、ウォール街では期待

ビジネス

英CPI、11月+3.2%に鈍化 市場は18日の利

ワールド

IR整備地域の追加申請、27年に受け付けへ=観光庁

ワールド

率直に対話重ね戦略的互恵関係を包括的に推進=日中関
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を変えた校長は「教員免許なし」県庁職員
  • 4
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 5
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 6
    「住民が消えた...」LA国際空港に隠された「幽霊都市…
  • 7
    【人手不足の真相】データが示す「女性・高齢者の労…
  • 8
    空中でバラバラに...ロシア軍の大型輸送機「An-22」…
  • 9
    FRBパウエル議長が格差拡大に警鐘..米国で鮮明になる…
  • 10
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出を睨み建設急ピッチ
  • 4
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の…
  • 5
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 6
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 7
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 8
    【クイズ】「100名の最も偉大な英国人」に唯一選ばれ…
  • 9
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 10
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的と、元イタリア…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 3
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 4
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 5
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 6
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 7
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 8
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 9
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中