最新記事

デンマーク

「世界一幸福」なデンマークはイギリス人にとっても不思議の国

2017年4月21日(金)16時37分
ニューズウィーク日本版ウェブ編集部

不妊治療に挑んでいたのに、ヒュッゲであっさり妊娠!?

世界有数の福祉国家デンマークは、税率が高いことでも有名だ。でもこれにはちゃんとした理由があり、実際デンマーク人は子供の教育や失業手当などの恩恵を十分に感じているから、誰も不平を言わないのだという。

イギリスで何年も不妊治療に挑んでいたというのに、ヘレンはデンマーク移住後、ヒュッゲな生活を送るとあっさり子供を授かってしまう。そして、この国の「教育は全人類の権利」という考え方に支えられた税金の使われ方にも強く共感していく。

確かに子供を持つ人にとって、デンマークの子育て環境は理想的だ。生後6カ月以降からほとんどの子供が保育所に通い始め、母親は職場復帰が奨励される。子供たちは保育園(国が75%の費用をカバー)で社会性を身につけ、小学校に上がれば、あとは18歳まで無料で教育が受けられる。

学校では創造性と自己表現が重んじられるため、社会に出たときにも自分の主張を臆せずに言えるようになるという。天然資源に乏しく、大きな産業もないデンマークにとって、人材こそ何よりの財産とする国の方針により、すべての子供は生まれたときから手厚く保護されているというわけだ。

離婚率が高いなどの問題もあるようだが、塾や習い事などの教育費が家計を逼迫している日本と比べて、子育て事情では見習うべき点が多い。社会人になるまでの長いスパンで教育を捉えている点も見逃せない。幼児期から社会性を身につけ、自主性を育てるということは優秀な社会人の人材育成にほかならないからだ。

もちろん共感する面ばかりが書かれているわけではない。著者がカルチャーショックを感じたことはたくさんあったようで、週の平均労働時間が34時間しかないこと、セックスに寛容すぎること、クリスマスの恐るべき乱痴気騒ぎ、デンマーク以外の国旗掲揚の禁止など、暮らしてみなくては分からない現実的なデンマークの姿が描かれる。これらは読者にとっても驚きだろう。

それにしても、たった1年でここまでデンマーク・ライフをレポートした著者の取材力には脱帽だ。インタビューは彼女の生業とはいえ、ささいな日々の疑問にぶつかるたびに、持ち前の好奇心の強さとフットワークの軽さから専門家に突撃インタビューを試み、自分の体験をもとに真相に迫ろうとする。ときには客観的データを交え、ときには皮肉とユーモアをたっぷり込めて。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米金利先物、9月利下げ確率60%に小幅上昇 PCE

ビジネス

ドル34年ぶり157円台へ上昇、日銀の現状維持や米

ワールド

米中外相会談、ロシア支援に米懸念表明 マイナス要因

ビジネス

米PCE価格指数、3月前月比+0.3%・前年比+2
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された米女優、「過激衣装」写真での切り返しに称賛集まる

  • 3

    中国の最新鋭ステルス爆撃機H20は「恐れるに足らず」──米国防総省

  • 4

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 5

    アカデミー賞監督の「英語スピーチ格差」を考える

  • 6

    大谷選手は被害者だけど「失格」...日本人の弱点は「…

  • 7

    今だからこそ観るべき? インバウンドで増えるK-POP…

  • 8

    19世紀イタリア、全世界を巻き込んだ論争『エドガル…

  • 9

    「性的」批判を一蹴 ローリング・ストーンズMVで妖…

  • 10

    「鳥山明ワールド」は永遠に...世界を魅了した漫画家…

  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 8

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 9

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 10

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 3

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈する動画...「吹き飛ばされた」と遺族(ロシア報道)

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 6

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 10

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中