最新記事

米中関係

ティラーソン米国務長官訪中――米中の駆け引き

2017年3月21日(火)17時00分
遠藤誉(東京福祉大学国際交流センター長)

習近平国家主席は「両国は一時、危機的な状況にもあったが、トランプ大統領との電話会談などによって良好な関係を続けている」とした上で、おおむね次のように述べている。

――中米両国は非常に良好なパートナーシップを継続することができると信じている。両国が協力して敏感な問題を解決し、中米の新しいスタート地点に立たなければならない。協力こそが唯一の正しい道である。相手の核心的利益を互いに重んじなければならない。

これに対してティラーソン国務長官は「トランプ大統領は習近平国家主席との電話会談を非常に重視しており、一刻も早く両国の首脳会談が実現することを期待している」と述べた。そして「中米関係は衝突せず、互いに尊重しウィン-ウィンの関係に基づいて、未来の50年の中米関係の発展の方向性を確定していかなければならない」などとした。

まあ、なんとも歯が浮くような外交儀礼ではないか。

トランプ大統領は「すべての選択はテーブルの上にある」として、北朝鮮に対する武力攻撃も辞さない構えだし、「北朝鮮を説得できない責任は中国にある」と何度も形を変えて発信している。

そして中国もまた、THAAD(サード)の韓国配備に着手したアメリカを、口を極めて非難し、「アメリカがTHAAD配備を中止し、大規模米韓軍事演習をやめない限り、朝鮮半島の平和は来ない。平和を乱しているのはアメリカだ。他国の玄関の前で喧嘩をするな!」と言い続けてきた。

だというのに、実際に会えば、この「きれいごと」!

サードの「サ」の字も、互いの口からは出て来なかった。

中国メディアにおける挑戦的な発信

中国のネットには、THAADの韓国配備に対する威嚇的な発信が充満している。

まず「サードの韓国入りに対する中国の報復は、ロシアよりも残忍無慈悲だ」というのがある。ここでは韓国に対する経済的報復を主として論じており、また「サードの韓国入りは、韓国経済を十年二十年も後退させるだろう」といった種類の情報もあり、「中国は多くのカードを持っている」という脅しも、早くから出ていた。

その多くのカードの中に「軍事行動」がある。

3月12日付の本コラム「パク大統領罷免とTHAAD配備に中国は?」で書いたように、中国外交部報道官は8日の定例記者会見で、「われわれは必ず必要な措置をとって中国自身の安全と利益を守る。このこと(THAAD配備)が招く全ての結果は、米韓が責任を負わなければならない」と強い語調で米韓を批難した。また2月23日、中国国防部の報道官は、韓国のロッテグループが韓国国防部とTHAAD配備のための土地の交換契約をすると宣言したことに対し「中国の軍隊はすでに必要な準備をしている」と宣言している。さらに「国防部:THAADの問題は中国の軍事力にモノを言わせる」とした情報が中国のネット空間を飛び交った。

これをトランプ政権の外交・国防関係者が見落とすはずがない。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米新規失業保険申請、20万8000件と横ばい 4月

ビジネス

米貿易赤字、3月は0.1%減の694億ドル 輸出入

ワールド

ウクライナ戦争すぐに終結の公算小さい=米国家情報長

ワールド

ロシア、北朝鮮に石油精製品を輸出 制裁違反の規模か
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国の研究チームが開発した「第3のダイヤモンド合成法」の意義とは?

  • 2

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロシア空軍基地の被害規模

  • 3

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 4

    「500万ドルの最新鋭レーダー」を爆破...劇的瞬間を…

  • 5

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 6

    ロシア軍の拠点に、ウクライナ軍FPVドローンが突入..…

  • 7

    「複雑で自由で多様」...日本アニメがこれからも世界…

  • 8

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 9

    中国のコモディティ爆買い続く、 最終兵器「人民元切…

  • 10

    「みっともない!」 中東を訪問したプーチンとドイツ…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 5

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 6

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 7

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 8

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 9

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 10

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 10

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中