最新記事

香港

若者たちの「30年戦略」と行政長官選挙にみる香港の苦境

2017年3月29日(水)18時58分
高口康太(ジャーナリスト、翻訳家)

新興政党「香港衆志」の中心メンバー、周庭(アグネス・チョウ、20歳)副秘書長は日本のコンテンツが好きで日本語も堪能。2016年8月19日、立法会選挙の街頭活動にて筆者撮影

<26日の香港行政長官選挙では、予定通り、中国政府の支持を得ていた林鄭月娥が当選。そもそも親中派が勝利する仕組みとなっており、一方で、民意を示すデモの動員人数も減っている。非親中派の活動家たちはこの状況をどう捉えているのか、新興政党「香港衆志」の周庭氏に聞いた>

2017年3月26日、香港で行政長官選挙が行われ、林鄭月娥(キャリー・ラム)氏が当選した。今年1月まで約5年間にわたり香港政府ナンバー2のポストである政務官を務めてきた人物だ。中国政府の支持も得ており、大本命が予定通りの圧勝という結果となった。

波乱がないのも当然だ。行政長官は普通選挙ではなく、1200人の選挙委員の投票によって選出される。うち中国寄りの建制派(親中派)は約800人と大多数を占めている。林鄭氏は777票を獲得しており、無難に親中派をまとめあげた。

しかし林鄭氏は、評判の悪い現政権の中枢にいた人物として香港市民の間で人気は低い。対立候補となったのが曽俊華(ジョン・ツァン)氏。林鄭氏よりはまだましだとして、世論調査の支持率も高く、中国政府に批判的な民主派は曽俊華支持を打ち出した。

もっとも曽氏とて長年、現香港政府ナンバー3のポストである財政官を務めてきた人物であり、その主張や手腕に林鄭氏と大した違いがあるわけではない。曽氏人気とはつまるところ林鄭氏の不人気の裏返しでしかなく、香港の選挙に強く介入した中国政府への当てこすりでしかない。

非親中派勢力の間では、「相乗りか白票か」が1つの論点となった。まだましな曽氏に相乗りすることで責任ある野党として行動するか、それとも不公正な選挙そのものに抗議する意味で白票を投じるか。どちらが正しい振る舞いかを判断することは難しいが、結局は林鄭氏が親中派をまとめきったことで、妥当かつ無風の選挙結果となった。

雨傘運動のように圧倒的民意を示せれば政治に影響を及ぼせる

相乗りか白票か。どちらを選んでも結局のところ政治には大して影響は与えられない。こうした非親中派の政治的苦境は主に制度に由来している。

行政長官選挙であれ議会(立法会)選挙であれ、中国寄りの建制派が勝利する制度が確立している。政治に影響力を与える方法があるとしたら、それは選挙ではなく、圧倒的な民意を集めることによって政府に「これは民の言うことを聞かないと危険だな」と圧力をかけることぐらいだろう。

その期待感が最大限に高まったのが2014年秋の大規模デモ「雨傘運動」だった。

2015年の山形国際ドキュメンタリー映画祭で上映された香港映画『革命まで』がこの状況をわかりやすく描いていた。同作は民主的な選挙を求めて金融街を占拠しようという「オキュパイ・セントラル」がどのように広まっていったのか、そして「オキュパイ・セントラル」が突発的な事件により「雨傘運動」に変化し、いかにして収束していったのかを記録した作品だ。

「オキュパイ・セントラル」はもともと香港大学准教授の戴耀廷氏が新聞コラムに書いたアイディアだ。アメリカの「オキュパイ・ウォールストリート」にヒントを得て、香港でもやってみてはという軽いノリで書いたコラムだったが、戴氏の想像を超えた反響を集め、現実の行動へと突き進んでいく。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

焦点:成熟期の豪債券市場、記録的発行ラッシュが中東

ワールド

韓国、中東情勢でエネルギー警戒レベル引き上げ 公用

ワールド

イラン情勢巡る評論、退役した方が「自分ならできる」

ビジネス

米自動車業界団体、「ガソリン税廃止を」 道路補修費
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本企業に迫る サステナビリティ新基準
特集:日本企業に迫る サステナビリティ新基準
2026年4月 7日号(3/31発売)

国際基準の情報開示や多様な認証制度──本当の「持続可能性」が問われる時代へ

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「根底にあるのは怒り」...日本の「3Dプリンター住宅」企業が救う、ウクライナの未来
  • 2
    なぜイスラエルは対イラン戦争を支持するのか...「イラン恐怖」の正体
  • 3
    中国がイラン戦争最大の被害者? 習近平の誤った経済政策と石油危機が奏でる「最悪なハーモニー」
  • 4
    攻撃開始日も知っていた?──イラン戦争を巡る巨額取引…
  • 5
    北京に代わる新都市構想は絵に描いた餅のまま...大幅…
  • 6
    人口減の自治体を救う「小さな浄水場」──誰もが常に…
  • 7
    年金は何歳からもらうのが得? 男女で違う「最適な受…
  • 8
    カンヌ映画祭最高賞『シンプル・アクシデント』独占…
  • 9
    「え、なんで?」フライト中に操縦席の窓が覆われて…
  • 10
    初の女性カンタベリー大主教が就任...ウィリアム皇太…
  • 1
    「根底にあるのは怒り」...日本の「3Dプリンター住宅」企業が救う、ウクライナの未来
  • 2
    ヘンリー・メーガン夫妻の豪州訪問に3万6000人超の反対署名...「歓迎してない」の声広がる
  • 3
    「水に流す」日本と「記憶する」韓国...気候と地理が育んだ「国民意識の違い」とは?
  • 4
    記憶を定着させるのに年齢は関係ない...記憶の定着度…
  • 5
    ロシア経済を支える重要な港、ウクライナのものと思…
  • 6
    攻撃開始日も知っていた?──イラン戦争を巡る巨額取引…
  • 7
    中国最大の海運会社COSCOがペルシャ湾輸送を再開──緊…
  • 8
    映画『8番出口』はアメリカでどう受け止められた?..…
  • 9
    オランウータンに「15分間ロックオン」された女性のS…
  • 10
    なぜイスラエルは対イラン戦争を支持するのか...「イ…
  • 1
    温暖化で増えた? サンマやサケ減少の裏で激増する「安価で栄養価の高い魚」の正体
  • 2
    ロシア政府、痛恨のミス...プーチンの「健康不安説」を裏付けるような動画を公式に投稿してしまう
  • 3
    メーガン妃、娘リリベット王女との新ショット公開...撮影はパパ
  • 4
    「根底にあるのは怒り」...日本の「3Dプリンター住宅…
  • 5
    「ノーと言えるスペイン」の背景に国防意識...次期ス…
  • 6
    キャサリン皇太子妃、ナイジェリア大統領夫妻出迎え…
  • 7
    数時間以内に死に至ることも...若者の間で集団感染が…
  • 8
    「日本より、自分の国(フランス)を心配すれば?」…
  • 9
    日本の若者「韓国就職」憧れと現実のギャップ ── ビ…
  • 10
    米軍も防ぎきれないイランのドローン攻撃──イラン製…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中