最新記事

企業

ロボット化する社員が企業の倫理的問題を招く

2017年1月19日(木)19時08分
ピーター・ネビル・ルイス ※編集・企画:情報工場

FangXiaNuo-iStock.

<職場と家庭で人格が変わり、オフィスでは従順なロボットのようになってしまう社員がいるが、これは良くない結果をもたらすことが多い。なぜこんな社員が生まれるのか。どんな悪影響が及ぶのか>

 あなたが所属する組織は、自分たちのカルチャーに問題を抱えていないだろうか? オフィスに入るやいなや、モラルや思慮分別がどこかに行ってしまうような人が雇われてはないか? ロバート・ルイス・スティーヴンソンの小説『ジキル博士とハイド氏』の主人公、ハイド氏のように職場と家庭で二重人格になるような従業員が多かったりしないだろうか? 実は、たくさんの会社にこうした問題が蔓延している。

 組織にとってカルチャーは重要だ。だが、カルチャーは目に見えない。ぼんやりとした雰囲気は把握できるだろうが、それが正しいのかどうか、誰も判断できない。自社のカルチャーを把握する確たる証拠が見出せれば、今よりビジネスはやりやすくなるかもしれない。

 リーマンショック直後のことを考えてみよう。金融監督機関は、リスクテイカーであり短期主義に陥った企業の行動に改善を求めた。そのときに監督機関が経営幹部に、「会社のカルチャーに問題があるので改めた方がいい」と指示するのは、少しもおかしなことではないようにみえる。

 しかし、実際にそれに取り組もうとすると企業は頭を抱えることになる。監督機関の側も具体的にどんな指導をしたらいいかわからない。なぜなら、両者とも、そもそもカルチャーとは何を意味するのかを理解していないからだ。監督機関が企業のカルチャーを十分に理解しておらず、それを測定するツールも持っていなければ、企業への介入は却って有害になりかねない。

 ツールであれば、「モラルDNA(MDNA)」というものがある。これは企業のカルチャーを科学的に測定し、分析する診断ツールだ。MDNAのアプローチは、従業員の行動パターンそのものよりも、そのパターンを生み出した要因を探るものだ。たとえば従業員たちは、あらかじめ決められた「規則」を拠りどころに行動するのか(服従倫理)、自身が決めた「原則」に従うのか(合理性の倫理)。あるいは、自分の行動がもたらした結果をどのくらい気にかけるか(心配りの倫理)。

 我々のクライアント企業は、MDNAの測定結果が有益なものと認めている。「もっとも重篤な病を抱えている」と分析されたカルチャーを持つ企業の社員は、「ジキル博士とハイド氏」のようだった。オフィスに到着した途端、人格が豹変する。彼らは思いやりのある良き親だったり、愛すべき友人であったりするのに、職場では心を失った機械人間のようになる。物事を自分自身で判断せずに、ルールブックの奴隷のようになるのだ。

 職場のルールは守らなければならない、というのはもっともだ。だが、従順なロボットのようなルールの遵守は、良くない結果をもたらすことが多い。職場で(家にいるときとは異なる)人間味を欠く機械的な行動をするだけのことが、役職が上になるほど大きな問題になっていく。管理職に就くような社員は、仕事のスキルだけでなく直感や判断力を買われて雇われているはずだ。だが、人間らしさを忘れた彼らは、状況に応じた正しい指示をするという道徳的な責任を放棄する。

【参考記事】優秀なチームの「失敗」を止める方法

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ガザ南部、医療機関向け燃料あと3日で枯渇 WHOが

ワールド

米、対イスラエル弾薬供給一時停止 ラファ侵攻計画踏

ビジネス

米経済の減速必要、インフレ率2%回帰に向け=ボスト

ワールド

中国国家主席、セルビアと「共通の未来」 東欧と関係
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:岸田のホンネ
特集:岸田のホンネ
2024年5月14日号(5/ 8発売)

金正恩会談、台湾有事、円安・インフレの出口......岸田首相がニューズウィーク単独取材で語った「次の日本」

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地ジャンプスーツ」が話題に

  • 2

    「自然は残酷だ...」動物園でクマがカモの親子を捕食...止めようと叫ぶ子どもたち

  • 3

    習近平が5年ぶり欧州訪問も「地政学的な緊張」は増すばかり

  • 4

    いま買うべきは日本株か、アメリカ株か? 4つの「グ…

  • 5

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 6

    日本の10代は「スマホだけ」しか使いこなせない

  • 7

    迫り来る「巨大竜巻」から逃げる家族が奇跡的に救出…

  • 8

    イギリスの不法入国者「ルワンダ強制移送計画」に非…

  • 9

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 10

    ケイティ・ペリーの「尻がまる見え」ドレスに批判殺…

  • 1

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地ジャンプスーツ」が話題に

  • 2

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受ける瞬間の映像...クラスター弾炸裂で「逃げ場なし」の恐怖

  • 3

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国の研究チームが開発した「第3のダイヤモンド合成法」の意義とは?

  • 4

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS…

  • 5

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミ…

  • 6

    外国人労働者がいないと経済が回らないのだが......…

  • 7

    「500万ドルの最新鋭レーダー」を爆破...劇的瞬間を…

  • 8

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 9

    サプリ常用は要注意、健康的な睡眠を助ける「就寝前…

  • 10

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 6

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 7

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 8

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

  • 9

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 10

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中