最新記事

感染症

スーパー耐性菌の脅威:米国で使える抗生物質がすべて効かない細菌で70代女性が死亡

2017年1月18日(水)17時10分
高森郁哉

「悪夢の細菌」とも呼ばれるカルバペネム耐性腸内細菌 CDC-REUTERS

<米国で利用可能な抗生物質26種類すべてに耐性を持つ細菌に感染した米国人女性が、昨年9月に死亡していたことを、米疾病予防管理センター(CDC)が発表した...>

 米国で利用可能な抗生物質26種類すべてに耐性を持つ細菌に感染した米国人女性が、昨年9月にネバダ州の病院で死亡していたことを、米疾病予防管理センター(CDC)が1月13日に報告した。多くの抗生物質に対する耐性を有する多剤耐性細菌、いわゆる「スーパー耐性菌」は、インドから感染が広がりつつあることが数年前から指摘されてきたが、この女性も過去にインドの病院で治療を受けていた。

患者は70代女性

 CDCによると、この患者はネバダ州ワショー郡に住む70代の女性。女性は2014年頃、インドを訪問中に右大腿骨を骨折し、さらに大腿骨と座骨に感染症を発症して、インドの病院で昨年6月まで複数回の入院治療を受けたという。

 女性が帰国したのは昨年8月上旬。同月18日には救急処置病院に入院して全身性炎症反応症候群と診断され、翌19日にはカルバペネム耐性腸内細菌(CRE)への感染が確認されたことで、院内感染を防ぐため隔離された。

 女性から採取されたCREは、現在米国で治療に使用できる26種類の抗生物質すべてに耐性を持っていた。女性は9月上旬、敗血症で死亡した。

【参考記事】抗生物質が効かない耐性菌の「培養シャーレ」化するインドの湖
【参考記事】あらゆる抗生物質が効かない「スーパー耐性菌」、アメリカで初の感染が見つかる

未認可の抗生物質で助かった可能性

 CDCの報告によると、この細菌の分離株を使ったテストで、ホスホマイシンという抗生物質が細菌に対して有効だった可能性があることがわかった。ただし米国では現在、ホスホマイシンは膀胱炎の治療用に経口薬としてのみ認可されており、今回の治療には使えなかった。米国以外では、ホスホマイシンが静脈内投与製剤として使用できる国もあるという。

広がるCRE感染

 今回のニュースに関連し、米CNNは17日、CREがこれまで考えられていたよりも広く拡散している可能性があるとする、複数の研究機関による学術論文(PDF)紹介した。この記事によると、米国では毎年9300人がCREに感染し、600人が死亡していると推定されるという。一方、日本の国立感染症研究所の発表では、国内における2015年のCRE感染の報告件数は1699件で、そのうち59人の患者が死亡したとしている。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

ミャンマー総選挙、ASEANの優先事項でない=マレ

ビジネス

良品計画、8月31日の株主に1対2の株式分割

ビジネス

日経平均は小幅続落、ファーストリテが320円押し下

ビジネス

英GDP、5月は前月比-0.1% 予想外に2カ月連
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:大森元貴「言葉の力」
特集:大森元貴「言葉の力」
2025年7月15日号(7/ 8発売)

時代を映すアーティスト・大森元貴の「言葉の力」の源泉にロングインタビューで迫る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「弟ができた!」ゴールデンレトリバーの初対面に、ネットが感動の渦
  • 2
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に...「曾祖母エリザベス女王の生き写し」
  • 3
    トランプ関税と財政の無茶ぶりに投資家もうんざり、「強いドルは終わった」
  • 4
    日本企業の「夢の電池」技術を中国スパイが流出...AP…
  • 5
    アメリカを「好きな国・嫌いな国」ランキング...日本…
  • 6
    アメリカの保守派はどうして温暖化理論を信じないの…
  • 7
    名古屋が中国からのフェンタニル密輸の中継拠点に?…
  • 8
    【クイズ】日本から密輸?...鎮痛剤「フェンタニル」…
  • 9
    ハメネイの側近がトランプ「暗殺」の脅迫?「別荘で…
  • 10
    完璧な「節約ディズニーランド」...3歳の娘の夢を「…
  • 1
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...父親も飛び込み大惨事に、一体何が起きたのか?
  • 2
    「弟ができた!」ゴールデンレトリバーの初対面に、ネットが感動の渦
  • 3
    日本企業の「夢の電池」技術を中国スパイが流出...APB「乗っ取り」騒動、日本に欠けていたものは?
  • 4
    後ろの川に...婚約成立シーンを記録したカップルの幸…
  • 5
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に..…
  • 6
    「やらかした顔」がすべてを物語る...反省中のワンコ…
  • 7
    「本物の強さは、股関節と脚に宿る」...伝説の「元囚…
  • 8
    「飛行機内が臭い...」 原因はまさかの「座席の下」…
  • 9
    為末大×TAKUMI──2人のプロが語る「スポーツとお金」 …
  • 10
    職場でのいじめ・パワハラで自死に追いやられた21歳…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 3
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事故...「緊迫の救護シーン」を警官が記録
  • 4
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 5
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 6
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 7
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 8
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 9
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 10
    「うちの赤ちゃんは一人じゃない」母親がカメラ越し…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中