最新記事

アメリカ社会

「メリークリスマス禁止」をあの男が変える!?

2016年12月24日(土)08時31分
小暮聡子(ニューヨーク支局)

そもそも「メリークリスマス」と言いたい・言われたいのか

 もっとも、アメリカにクリスマスを取り戻そうという主張はトランプのオリジナルではない。ハーバード・ビジネス・レビュー誌によれば、「メリークリスマスと言って良いか否か」という論争は、2005年に保守派のラジオパーソナリティーであるジョン・ギブソンが発表した著書『対クリスマス戦争』と、それを取り上げたFOXニュースの番組をきっかけに勃発した。それ以来この論争は、アメリカで例年の季節行事となっている。

 ギブソンが主張したのは、政府や大企業は「メリークリスマス」と言うことを政治行為とみなして排除することで、反クリスマス運動を推進しているというもの。例として挙げたのは、04年にアマゾンが顧客に対して「メリークリスマス」の代わりに「ハッピーホリデー」と発信するようになったり、学校が「クリスマス休暇」ではなく「冬休み」と言うようになったことなどだ。

 確かに、今ではアメリカの大企業はこぞって「ホリデー」派に転換している。「ホリデーセール」や「ホリデーコンサート」など、市場では「クリスマス」という言葉がタブー化されているようにさえ見える。

 トランプが異を唱えているのは、「クリスマス」という言葉がさながら「禁句」となりつつある状況だ。彼は昨年のこの時期、スターバックスが恒例のクリスマス仕様の紙カップを廃止すると発表した際に「我々はスターバックスの不買運動をすべきかもしれない」と発言して物議を醸した(この騒動との因果関係は不明だが、今年のスタバのホリデーカップにはクリスマスらしさが復活している)。

 では、トランプが解釈するようにアメリカ人は本音では今も「メリークリスマス」と言いたいのだろうか。調査機関「Public Religion Research Institute(PRRI)」が今月行った世論調査によれば、「店や企業は顧客に対して『メリークリスマス』の代わりに『ハッピーホリデー』」と言うべきかという問いに対して、「言うべき」と答えたのは回答者の47%、「言うべきではない」は46%と、意見が真っ二つに分かれた。回答の相違には党派的な要素が色濃く、「メリークリスマスと言うべき」と答えた共和党員は67%に上った一方で、民主党員はわずか30%だった。

 一方で、キリスト教徒以外の人が「メリークリスマス」と言われて気分を害するかどうかは人によるだろう。リベラル紙のニューヨーク・タイムズでさえ今月、「クリスマスを祝わないユダヤ教徒やイスラム教徒も、心のこもった『メリークリスマス』を不快に思わないと言うことが多い」と記事で指摘した。

 イギリスでは今も「メリークリスマス」が主流だというし、公的な場や市場での名称を「クリスマス」に戻すべきかどうかは別として、トランプ政権誕生をきっかけに対人間コミュニケーションにおける「対クリスマス戦争」は意外と平和な結末を迎えられるかも?

【参考記事】スパコン「ワトソン」まで参入!AIで激変するクリスマス・ショッピング事情

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

FRB利下げ「良い第一歩」、幅広い合意= ハセット

ビジネス

米新規失業保険申請、3.3万件減の23.1万件 予

ビジネス

英中銀が金利据え置き、量的引き締めペース縮小 長期

ワールド

台湾中銀、政策金利据え置き 成長予想引き上げも関税
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本の小説36
特集:世界が尊敬する日本の小説36
2025年9月16日/2025年9月23日号(9/ 9発売)

優れた翻訳を味方に人気と評価が急上昇中。21世紀に起きた世界文学の大変化とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「何だこれは...」クルーズ船の客室に出現した「謎の物体」にSNS大爆笑、「深海魚」説に「カニ」説も?
  • 2
    燃え上がる「ロシア最大級の製油所」...ウクライナ軍、夜間に大規模ドローン攻撃 国境から約1300キロ
  • 3
    1年で1000万人が死亡の可能性...迫る「スーパーバグ」感染爆発に対抗できる「100年前に忘れられた」治療法とは?
  • 4
    「日本を見習え!」米セブンイレブンが刷新を発表、…
  • 5
    中国山東省の住民が、「軍のミサイルが謎の物体を撃…
  • 6
    アジア作品に日本人はいない? 伊坂幸太郎原作『ブ…
  • 7
    中国経済をむしばむ「内巻」現象とは?
  • 8
    ケージを掃除中の飼い主にジャーマンシェパードがま…
  • 9
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 10
    「ゾンビに襲われてるのかと...」荒野で車が立ち往生…
  • 1
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 2
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれば当然」の理由...再開発ブーム終焉で起きること
  • 3
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる」飲み物はどれ?
  • 4
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 5
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 6
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 7
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 8
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 9
    電車内で「ウクライナ難民の女性」が襲われた驚愕シ…
  • 10
    「何だこれは...」クルーズ船の客室に出現した「謎の…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 4
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 5
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 6
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 7
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 8
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
  • 9
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 10
    「怖すぎる」「速く走って!」夜中に一人ランニング…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中