最新記事

アメリカ社会

「メリークリスマス禁止」をあの男が変える!?

2016年12月24日(土)08時31分
小暮聡子(ニューヨーク支局)

maurusone-iStock.

<近年のアメリカでは「メリークリスマス」の代わりに「ハッピーホリデー」と言うのが主流。だがそれも今年で終わるかもしれない。トランプ次期大統領が「メリークリスマス」のタブー化に異を唱えているからだ>

 ニューヨークの冬と言えば、クリスマス。11月末の感謝祭を過ぎると街の至るところにクリスマスツリーが飾られ、サンタクロースやクリスマスソングが溢れかえる。そんなクリスマスムード一色のこの街で、日本にいた時よりも耳にしない言葉がある。「メリークリスマス(Merry Christmas)」だ。

 どうやら近年のアメリカでは、「メリークリスマス」は気軽に使ってはいけない言葉のようだ。理由は、クリスマスが宗教的な行事である以上、キリスト教徒でない相手に対してキリスト教の祝い事を押し付けるのはよろしくないという考え方が広まったから。

 キリスト教徒に対して言う分には問題ないので、相手がキリスト教徒だとあらかじめ分かっている家族間や親しい間柄同士では今も普通に使われる。一方でさまざまな宗教の人が混在するような公の場では、「メリークリスマス」の代わりに「ハッピーホリデー(Happy Holidays)」と言うのが主流化してきた。

 特に多民族の街ニューヨークでは、この時期になると店のスタッフや会社の同僚と交わす挨拶として「ハッピーホリデー」は決まり文句だ。先日も会社で「クリスマスパーティー」ならぬ「ホリデーパーティー」が開催されたし、仕事相手から届くのは「メリークリスマス」ではなく「ハッピーホリデー」と書かれたカード。「祝・クリスマス」に沸くニューヨークからは、「クリスマス」という言葉だけが奇妙に消し去られている。

 だが、この風潮も今年を機に変わるかもしれない。ドナルド・トランプ次期大統領が「メリークリスマス」のタブー化を終わらせると宣言しているからだ。

 そもそも「ハッピーホリデー」は、「ポリティカル・コレクトネス」を推進しようという流れの中から出てきた言葉だ。ポリティカル・コレクトネスとは、差別や偏見に基づいた表現を「政治的に公正」なものに是正すべきという考え方のこと。主に人種や性別、性的嗜好、身体障害に関わる用語や認識から差別をなくそうという動きで、20世紀後半のアメリカでは「インディアン」を「ネイティブアメリカン」、「黒人」を「アフリカ系アメリカ人」、「ビジネスマン」を「ビジネスパーソン」に変えるなど、用語上の差別が撤廃されてきた。

【参考記事】あの男が広めた流行語「PC」って何のこと?

 しかしトランプは、ポリティカル・コレクトネスに縛られて言いたいことが言えなくなったアメリカに真っ向から異を唱えて当選した。彼のスローガン「アメリカを再び偉大に」には、「アメリカが再び『メリークリスマス』と言える国に」という意味も込められている。

 先週もウィスコンシン州での遊説で、トランプはこう語った。「18カ月前、私はウィスコンシンの聴衆にこう言った。いつかここに戻って来たときに、我々は再び『メリークリスマス』と口にするのだと。......だからみんな、メリークリスマス!」

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米国株式市場=S&Pとナスダック下落、ネットフリッ

ワールド

IMF委、共同声明出せず 中東・ウクライナ巡り見解

ビジネス

NY外為市場=円・スイスフラン上げ幅縮小、イランが

ビジネス

米P&G、通期コア利益見通し上方修正 堅調な需要や
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:老人極貧社会 韓国
特集:老人極貧社会 韓国
2024年4月23日号(4/16発売)

地下鉄宅配に古紙回収......繁栄から取り残され、韓国のシニア層は貧困にあえいでいる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    止まらぬ金価格の史上最高値の裏側に「中国のドル離れ」外貨準備のうち、金が約4%を占める

  • 3

    中国のロシア専門家が「それでも最後はロシアが負ける」と中国政府の公式見解に反する驚きの論考を英誌に寄稿

  • 4

    休日に全く食事を取らない(取れない)人が過去25年…

  • 5

    「韓国少子化のなぜ?」失業率2.7%、ジニ係数は0.32…

  • 6

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 7

    日本の護衛艦「かが」空母化は「本来の役割を変える…

  • 8

    中ロ「無限の協力関係」のウラで、中国の密かな侵略…

  • 9

    毎日どこで何してる? 首輪のカメラが記録した猫目…

  • 10

    便利なキャッシュレス社会で、忘れられていること

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 3

    攻撃と迎撃の区別もつかない?──イランの数百の無人機やミサイルとイスラエルの「アイアンドーム」が乱れ飛んだ中東の夜間映像

  • 4

    天才・大谷翔平の足を引っ張った、ダメダメ過ぎる「無…

  • 5

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 6

    アインシュタインはオッペンハイマーを「愚か者」と…

  • 7

    犬に覚せい剤を打って捨てた飼い主に怒りが広がる...…

  • 8

    ハリー・ポッター原作者ローリング、「許すとは限ら…

  • 9

    価値は疑わしくコストは膨大...偉大なるリニア計画っ…

  • 10

    大半がクリミアから撤退か...衛星写真が示す、ロシア…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

  • 10

    浴室で虫を発見、よく見てみると...男性が思わず悲鳴…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中