最新記事

過敏性腸症候群

つらいおなかの悩みを救う「低FODMAP」食事療法って?

2016年12月10日(土)11時00分
ジェシカ・ファーガー(ヘルス担当)

 それを考えれば、大手食品会社が低FODMAPに目を付けるのも不思議ではない。10月には、ネスレの一部門ネスレ・ヘルスサイエンスが、低FODMAP食品の第1弾として「プロノーリッシュ」を発売した。

 患者はこのような商品を待ち望んでいたと、スカーラタは言う。特に低FODMAP食事法を始めたばかりで、食品ラベルをいちいちチェックする大変さに困惑する時期はそうだ。しかも短鎖炭水化物は、市販食品のほぼすべてに含まれる。

 最近の研究によれば、IBSの原因の1つは、患者の腸内の微生物群(マイクロバイオーム)のバランスの乱れにあることが分かってきた。病気や不適切な食生活によって、「善玉菌」が腸内で減少して微妙なバランスが崩れると、IBSや食物アレルギーを引き起こす可能性があるらしい。

 食品メーカーは広告宣伝活動を通じて、「腸の健康」という概念を消費者に売り込んできた。一部には不正確で説得力に欠ける主張もあったが、それがマイクロバイオームに対する一般の関心を高める要因の1つになり、食品・栄養補助食品業界に巨額の利益をもたらしている。

 今では腸内バランスを保つことが消費者の間でブームになり、食品メーカーはあらゆる製品に善玉菌を加えている。アメリカの法律では、例えば善玉菌入りのシリアル食品が腸内環境を変える効能があると宣伝することはできないが、多くの消費者は健康にいいと思い込んでいる。

【参考記事】甘酒......心の傷まで治してくれる、飲む点滴・甘酒

 こうした健康食ブームの背景には、消費者の「自己診断」がある。低FODMAP食品も同じような形でブームになる可能性がある。IBSの患者には切実なニーズがあり、インターネットで検索してこの種の食品に期待する人々もいるはずだ。

食べる楽しみを奪わない

 一方、IBSの処方薬は数が少なく、効果がある患者は全体の30%前後にすぎない。そのため専門家は、もっぱら食生活の改善に力を入れている。

 低FODMAP食事法では、このカテゴリーに属する糖類を含む食品を避けなくてはならない。オリゴ糖は小麦、ライ麦、ニンニク、タマネギに含まれる。2糖類を含むのは、牛乳(乳糖)、焼き菓子(ショ糖)、麦芽由来の飲料(麦芽糖)など。単糖類は蜂蜜、一部の果物に含まれ、ポリオールはソルビトール、マンニトール、キシリトール、イソマルトといった無糖の甘味料だ。

 この食事療法を実践するのは大変なので、ルールを厳密に適用するのは初期段階だけというケースが多い。栄養士や医師はこの食事療法を通じて、患者がFODMAPのどの糖に耐性がないかを判断する。

 食事療法を始めた当初は、リストに載っている全食品を避ける。この「完全排除」を数週間続けたら、食品テストの段階に入る。リストの食べ物を1つずつ順番に試し、どれが患者の症状の原因なのかを調べるのだ。

「食事制限の初期段階で症状が改善するのが理想だが、その後の食品テストも重要だ」と、ニューヨーク大学ランゴン医療センターのカテリーナ・オネート医師は言う。「(症状の原因を特定できれば)食事メニューの自由度を広げることができる」

 つまり、目標は患者から食事の楽しみを奪わない治療法だ。

[2016年12月 6日号掲載]

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

日本との関税協議「率直かつ建設的」、米財務省が声明

ワールド

アングル:留学生に広がる不安、ビザ取り消しに直面す

ワールド

トランプ政権、予算教書を公表 国防以外で1630億

ビジネス

NY外為市場=ドル下落、堅調な雇用統計受け下げ幅縮
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得る? JAXA宇宙研・藤本正樹所長にとことん聞いてみた
  • 2
    古代の遺跡で「動物と一緒に埋葬」された人骨を発見...「ペットとの温かい絆」とは言えない事情が
  • 3
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 4
    日々、「幸せを実感する」生活は、実はこんなに簡単…
  • 5
    インドとパキスタンの戦力比と核使用の危険度
  • 6
    目を「飛ばす特技」でギネス世界記録に...ウルグアイ…
  • 7
    宇宙からしか見えない日食、NASAの観測衛星が撮影に…
  • 8
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が…
  • 9
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 10
    なぜ運動で寿命が延びるのか?...ホルミシスと「タン…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 5
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 6
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 7
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得…
  • 8
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が…
  • 9
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来…
  • 10
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 9
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
  • 10
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中