最新記事

インタビュー

AIにできない人間のミッションは、答えのない問いを模索すること

[ケヴィン・ケリー]著述家、編集者

2016年12月9日(金)14時24分
WORKSIGHT

<『〈インターネット〉の次に来るもの――未来を決める12の法則』の著者ケヴィン・ケリー氏は、AIは空気のような存在になるが、AIが無限大の知能を持つという見立てには否定的だ。ただし、人間とマシンが複雑な相互依存を形成する、違う種類のシンギュラリティはあるかもしれない>

※インタビュー前編:今がベストなタイミング、AIは電気と同じような存在になる

 2016年7月、電通デザイントークにて『〈インターネット〉の次に来るもの――未来を決める12の法則』を執筆したケヴィン・ケリー氏の出版記念講演会が開催された。(主催:電通デザイントーク、企画協力:COTAS)

 ケリー氏の講演内容を前編で、その後の質疑応答を後編(本編)で紹介する。

【参考記事】ケビン・ケリーが考えるテクノロジーの進化/Figure out(解明する)

◇ ◇ ◇

――AIが人間の知能を超える「シンギュラリティ」(技術的特異点)について、一般に「弱いシンギュラリティ」と「強いシンギュラリティ」が知られていますが、本書でケリーさんは「弱いシンギュラリティの方があり得る」と指摘していますね。なぜ強いシンギュラリティが起こらず、弱いシンギュラリティしか起こらないのでしょうか。

ケリー: シンギュラリティは複雑な概念です。もともとは物理学の用語で、そこから先は未知の世界が広がって予測が不可能という、その境界を表す言葉です。賢いAIを作って、それが自分より賢いAIを作り、それがさらに賢いAIを作るという具合にAI自身による自作を連鎖させれば、知能の爆発的な進化を引き起こすことができるのではないかと研究者が考えたわけです。

 これについてレイ・カーツワイル* は独自の考察を示しました。AIの進化が増幅していく状態が100年も繰り返されると指数関数的な成長が起き、ある時点でそのキャパシティが人間の知能を上回り、AIが無限大の知能を持つと。それはすなわち医学的な問題を含めた全ての問題を解決することになるので、人間は不死になると言ったわけです。これが強いシンギュラリティで、2044年頃に起こるだろうとされています。

 AIが無限大の知能を持って人間を凌駕するという見立てについて、私は共感しかねます。実現するには条件があまりにも複雑だからです。

 人の知能は多数の思考、複数の次元からなるものです。一方、エンジニアリング上の制約でAIは全ての機能を最大化することはできません。従って、人間を上回る知性を持ったAIは実現しないと私は考えています。

 ただし、違う種類のシンギュラリティはあるかもしれません。シンギュラリティにはさまざまなシナリオがあると思いますが、私が考えるより可能性の高いシナリオは地球規模のコンピュータを作るということです。全ての人類と全てのコンピュータをつないで、人間とマシンが複雑な相互依存を形成する。非常に大規模な1つのコンピュータとして振る舞うのです。そういった種類のシンギュラリティが一番可能性が高いのではないかと思います。

これはあなたの未来で、そこから逃れることはできない

――本書で説明されている不可避の未来をもたらす12のトレンドは全て動詞で示されています。あえて形容詞や副詞をつけるとしたら、どんなものがありますか。

ケリー: 有名な広告キャンペーンがあります。1990年代のAT&Tのものです。将来について語ったテレビコマーシャルです。彼らの加えた言葉は2つでしたが、その言葉は私の本のセンスに近いです。それは"You will"です。あなたはそうするんだということです。

 あなたは将来、地図なしで国を横断すると彼らは言った。GPSのことですね。あるいは海岸にいて誰かにメッセージを送っている。あるいは台所で質問すると答えが出てくる。そういう風景に対して"You will"という言葉が添えられるのです。

 これが私が提案する価値です。"You will"です。不可避のテクノロジーに私なら副詞でなく代名詞を加えると思います。基本的には"You will"です。あなたはフィルターする、あなたは認知化する、あなたはアクセスする、あなたはリミックスする――。あなたはこの不可避の流れに関わってくるんです。これはあなたの将来で、そこから逃れることはできないということです。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米新規失業保険申請1.8万件増の24.1万件、予想

ビジネス

米財務長官、FRBに利下げ求める

ビジネス

アングル:日銀、柔軟な政策対応の局面 米関税の不確

ビジネス

米人員削減、4月は前月比62%減 新規採用は低迷=
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 2
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来が来るはずだったのに...」
  • 3
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 4
    ポンペイ遺跡で見つかった「浴場」には、テルマエ・…
  • 5
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 6
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 7
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 8
    クルミで「大腸がんリスク」が大幅に下がる可能性...…
  • 9
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 10
    悲しみは時間薬だし、幸せは自分次第だから切り替え…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 7
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 8
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 9
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 10
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 9
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 10
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中