最新記事

シリア情勢

「ホワイト・ヘルメット」をめぐる賛否。彼らは何者なのか?

2016年10月21日(金)16時30分
青山弘之(東京外国語大学教授)

ホワイト・ヘルメットとアル=カーイダの系譜を汲む組織との関係が疑われる- Youtube

<激化する内戦の中、人命救助を続ける「ホワイト・ヘルメット」は、にわかに注目を集めている。しかし、その勇敢なボランティ精神が称賛される一方で、アル=カーイダの系譜を汲む組織と「結託」しているとの指摘も。その実態は...>

 「21世紀最悪の人道危機」と言われて久しい「シリア内戦」において、「ホワイト・ヘルメット」と呼ばれるグループが、欧米諸国や日本のメディアでにわかに注目を集めている。ロシア・シリア両軍の攻撃に晒される「反体制派」支配地域で人命救助を続ける彼らは、その勇敢さと無償の奉仕精神を称賛される一方で、アル=カーイダの系譜を汲むシャーム・ファトフ戦線(旧シャームの民のヌスラ戦線)と「結託」しているとの指摘も多い。

 ホワイト・ヘルメットをめぐるこうした賛否両論はどう捉えたら良いだろう?

「中立、不偏、人道」を掲げてはいるが...

 ホワイト・ヘルメット(正式名称は民間防衛隊)は、2012年末から2013年初めにかけて、戦災者の救助や治療、犠牲者の埋葬を行うために各地で結成されたボランティア・チームに起源を持ち、これらが2014年10月に統合することで正式に発足した。現在の代表はラーイド・サーリフ氏(イドリブ県ジスル・シュグール市出身)。8県(アレッポ県、イドリブ県、ラタキア県、ハマー県、ヒムス県、ダマスカス県、ダマスカス郊外県、ダルアー県)に114のセンターを擁し、2,850人のボランティアが活動しているという。

【参考記事】シリアという地獄のなかの希望:市民救助隊「ホワイト・ヘルメット」の勇気

 彼らは「中立、不偏、人道」を掲げ、いかなる政党、政治組織にも属せず、サーリフ代表によると「瓦礫のなかから、ヒズブッラーの戦闘員、イラン人、シリア軍兵士さえも救出してきた」と主張する。しかし、草の根的、中立的、そして非政治的なイメージとは対象的に、その背後には、欧米諸国とその同盟国の影が見え隠れする。

欧米諸国とその同盟国の間接的に資金供与

 ホワイト・ヘルメット結成を主導したのは、ジェームズ・ルムジュリアーという英国人だということは広く知られている。彼はサンドハースト王立陸軍士官学校を卒業後、北大西洋条約機構(NATO)の諜報部門や国連英国代表部に勤務、コソボ、イスラエル、イラク、レバノンなどで20年以上にわたり職務にあたった。その後2000年代半ばに民間に移籍し、アラブ首長国連邦(UAE)に拠点を置く危機管理会社「グッド・ハーバー・インターナショナル」のコンサルタントとなった。このルムジュリアーが、欧米諸国などから寄せられた資金を元手に、2013年3月からトルコのイスタンブールでシリア人の教練を開始し、組織化したのがホワイト・ヘルメットだった。

 ルムジュリアーはまた、2014年に「メイデイ・レスキュー」と称するNGOをオランダで立ち上げ、この団体を経由して、米国、英国、ドイツ、日本といった国の政府はホワイト・ヘルメットに資金を供与した。例えば、米国際開発庁(USAID)は2013年以降、少なくとも2,300万米ドルを援助し、英国政府も2012年から2015年にかけて1,500万英ポンドを提供した。このほか、米国の開発企業「ケモニクス・インターナショナル」、UAEのコンサルタント会社「ARK」、そしてトルコのNGO「AKUT捜索救援協会」などが、ホワイト・ヘルメットに技術や装備の提供、広報、組織運営といった分野で支援を行っている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

外国勢の米国債保有、9月は減少 日本が増加・中国減

ワールド

米クラウドフレアで一時障害、XやチャットGPTなど

ワールド

エプスタイン文書公開法案、米上下院で可決 トランプ

ビジネス

トヨタ、米5工場に1400億円投資 HV生産強化
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界も「老害」戦争
特集:世界も「老害」戦争
2025年11月25日号(11/18発売)

アメリカもヨーロッパも高齢化が進み、未来を担う若者が「犠牲」に

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR動画撮影で「大失態」、遺跡を破壊する「衝撃映像」にSNS震撼
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    「ゲームそのまま...」実写版『ゼルダの伝説』の撮影風景がSNSで話題に、「再現度が高すぎる」とファン興奮
  • 4
    マイケル・J・フォックスが新著で初めて語る、40年目…
  • 5
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 6
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 7
    報じられなかった中国人の「美談」
  • 8
    「嘘つき」「極右」 嫌われる参政党が、それでも熱狂…
  • 9
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 10
    「日本人ファースト」「オーガニック右翼」というイ…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 4
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 5
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 6
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 7
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 8
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 9
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 10
    「ゲームそのまま...」実写版『ゼルダの伝説』の撮影…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 6
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 7
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 10
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中