最新記事

中国

「金」じゃなくてもOK? 変わる中国のスポーツ観

2016年9月7日(水)15時20分
デービッド・ボロズコ

Nolwenn Le Gouic-Icon Sport/GETTY IMAGES

<金メダル至上主義にとうとう終止符が打たれた!? 自信を付けた中国がリオで見せた大きな「進化」>(銅メダルだった競泳選手の傅は、その親しみやすい人柄が人気になった)

 リオデジャネイロ五輪は魅力的な出来事でいっぱいだった。

 シリア出身で、密航船難破の危機に直面しながらヨーロッパへ渡り、五輪史上初の難民選手団の一員として出場した競泳選手ユスラ・マルディニ。陸上女子5000メートル予選で一緒に転倒した相手と助け合ってゴールし、栄誉ある「ピエール・ド・クーベルタン」メダルを手にしたニュージーランドのニッキ・ハンブリン――。

 中国選手も飛び込み競技をはじめ、重量挙げや陸上、卓球などで大活躍した。だが中国にとって今大会での真の達成は、オリンピックに対する姿勢そのものが進化したことだ。

「スポーツ愛国主義に突き動かされていた中国に変化が見え始めた」。韓国紙・中央日報はリオ五輪開催期間中の記事でそう指摘している。「この16年間で初めて大会初日の金メダル獲得がなかったものの、(中国国営の)新華社通信は金メダル獲得のニュースより中国選手の冷静な態度に価値があると報じた」

 正しい方向への一歩であることは間違いない。とはいえ冷静さを強調するのは、12年のロンドン五輪で重量挙げの呉景彪(ウー・ジンビャオ)選手がさらした「国辱的醜態」を意識したものともいえる。

【参考記事】改めて今、福原愛が中国人に愛されている理由を分析する

 4年前、重量挙げ男子56キロ級で銀メダルを手にした呉は「私は母国に値しない人間だ。中国重量挙げ選手団の恥だ」と涙ながらに謝罪し、苦悩に満ちた叫び声を上げた。

 金メダルを獲得せよという国内からの大きなプレッシャーを考えれば、呉の態度も理解できる。呉の一件をめぐって、ブルームバーグ・ビューのコラムニスト、アダム・ミンターは中央日報への寄稿で指摘した。中国は、初めて本格参加した夏季五輪である84年のロサンゼルス大会以来、金メダル病に取り付かれている、と。

競泳選手の「生理」発言

 ミンターいわく、中国選手が呉のように過剰な反応を見せるのには別の理由もある。すなわち、恐怖のせいだ。ロサンゼルス大会に出場した走り高跳びの花形選手、朱建華(チュー・チエンホア)が金でなく銅メダルを手にした際には、怒った群衆が朱の自宅に投石する事件が起きたという。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米シティ、ロシア部門売却を取締役会が承認 損失12

ワールド

韓国大統領、1月4ー7日に訪中 習主席と首脳会談

ワールド

マレーシア野党連合、ヤシン元首相がトップ辞任へ

ビジネス

東京株式市場・大引け=続落、5万円台維持 年末株価
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 2
    マイナ保険証があれば「おくすり手帳は要らない」と考える人が知らない事実
  • 3
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 4
    「すでに気に入っている」...ジョージアの大臣が来日…
  • 5
    なぜ筋肉を鍛えても速くならないのか?...スピードの…
  • 6
    「サイエンス少年ではなかった」 テニス漬けの学生…
  • 7
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」と…
  • 8
    【銘柄】子会社が起訴された東京エレクトロン...それ…
  • 9
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 10
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 3
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 4
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 5
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 6
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 7
    マイナ保険証があれば「おくすり手帳は要らない」と…
  • 8
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 9
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 10
    素粒子では「宇宙の根源」に迫れない...理論物理学者…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切…
  • 6
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 7
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 8
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 9
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 10
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中