最新記事

北朝鮮

習近平はなぜ北朝鮮高官と会談したのか?――その舞台裏を読み解く

2016年6月3日(金)17時00分
遠藤誉(東京福祉大学国際交流センター長)

 それでいて、今年4月19日、李洙墉氏が突如、北京国際空港に姿を現した。迎え出たのは駐中国の北朝鮮大使、池在竜(チ・ジェリョン)氏で、李洙墉氏は池在竜氏の車に乗って北京にある北朝鮮大使館に消えた。目的は5月6日から開催される朝鮮労働党第7回全国代表大会(第7回党大会)に参加するため、中国から代表を送ってくれないかという要望であったと聞く。

 しかしその願いは拒絶されたため、李洙墉氏はアメリカのニューヨークに向けて出発した。李洙墉氏にとっては非常に珍しい訪米だとのこと。

 4月22日、2015年末にフランスで開かれた国連の気候変動に関する会議(COP21)で採択された「パリ協定」の署名式に参加するため、李洙墉氏は国連に姿を現した。これがサインをしている李洙墉氏だ。国連では潘基文(パン・ギムン)国連事務総長とも握手している

 翌日、李洙墉氏はAP通信(Associated Press)の取材を国連の北朝鮮オフィスで受けている。これも非常に珍しい現象である。取材に対して彼は「韓国とアメリカが毎年行っている軍事合同演習を停止しさえすれば、(北)朝鮮は核実験をやめる」と断言した。

 この前後に、李洙墉氏とアメリカ国務省OBらとの接触があったものと思われる。

 今年5月28日、スウェーデンに北朝鮮外務省の高官とアメリカ国務省OB等が姿を現し、非公式会談を行ったことが日本でも報道された。

 なぜ、こんなことが突如、米朝の間で行なわれるのか、少なからぬ人が不思議に感じたのではないかと推測するが、その陰には、まさにこの李洙墉氏がいたことになろう。

 中国を批難することによって、アメリカを引っ張り出そうとしていた北朝鮮は、4月19日に中国の拒絶に遭い、「それなら直接アメリカと」という形で、北朝鮮外交の大物、李洙墉氏が動いたと考えるのが妥当だ。

 5月9日付の本コラム「北朝鮮党大会を中国はどう見ているか?」で書いたように、朝鮮労働党の第7回党大会開催に対して、習総書記は一応祝電を送ってはいる。しかしそれは第6回党大会のときの祝電と比較して非常に抑えられたものだったし、また送信したのが党大会開催の夜だった。それもあってか、北朝鮮の「労働日報」では、他の国の祝電に関する情報は第5面にあったのに、習近平総書記からの祝電だけは第7面に小さく書いてあったという。

なぜ、中国へ?――背景には朴槿恵のアフリカ諸国歴訪

 それならなぜ、諦めたはずの中国を、北朝鮮はまたアタックし始めたのか?

 その背景には韓国の朴槿恵大統領のアフリカ諸国歴訪がある。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

中国製品への80%関税は「正しい」、市場開放すべき

ワールド

ロシアで対独戦勝記念式典、プーチン氏は連合国の貢献

ワールド

韓国地裁、保守系候補一本化に向けた党大会の開催認め

ビジネス

米労働市場は安定、最大雇用に近い=クーグラーFRB
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    5月の満月が「フラワームーン」と呼ばれる理由とは?
  • 2
    ついに発見! シルクロードを結んだ「天空の都市」..最新技術で分かった「驚くべき姿」とは?
  • 3
    脂肪は自宅で燃やせる...理学療法士が勧める「3つの運動」とは?
  • 4
    健康は「何を食べないか」次第...寿命を延ばす「5つ…
  • 5
    SNSにはトップレス姿も...ヘイリー・ビーバー、ノー…
  • 6
    骨は本物かニセモノか?...探検家コロンブスの「遺骨…
  • 7
    中高年になったら2種類の趣味を持っておこう...経営…
  • 8
    教皇選挙(コンクラーベ)で注目...「漁師の指輪」と…
  • 9
    恥ずかしい失敗...「とんでもない服の着方」で外出し…
  • 10
    韓国が「よく分からない国」になった理由...ダイナミ…
  • 1
    脂肪は自宅で燃やせる...理学療法士が勧める「3つの運動」とは?
  • 2
    健康は「何を食べないか」次第...寿命を延ばす「5つの指針」とは?
  • 3
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得る? JAXA宇宙研・藤本正樹所長にとことん聞いてみた
  • 4
    【クイズ】世界で2番目に「軍事費」が高い国は?...1…
  • 5
    部下に助言した時、返事が「分かりました」なら失敗…
  • 6
    古代の遺跡で「動物と一緒に埋葬」された人骨を発見.…
  • 7
    5月の満月が「フラワームーン」と呼ばれる理由とは?
  • 8
    シャーロット王女とスペイン・レオノール王女は「どち…
  • 9
    日々、「幸せを実感する」生活は、実はこんなに簡単…
  • 10
    インドとパキスタンの戦力比と核使用の危険度
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    脂肪は自宅で燃やせる...理学療法士が勧める「3つの運動」とは?
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 6
    健康は「何を食べないか」次第...寿命を延ばす「5つ…
  • 7
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得…
  • 8
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 9
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 10
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中