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アメリカと対等ぶるロシアはもう終わっている

ウクライナやシリアで大胆な軍事行動に出た背景には、ロシア版カラー革命を恐れる国内不安があった

2016年3月30日(水)19時33分
アリエル・コーエン(ディニュー・パトリシウ・ユーラシアセンター上級研究員)

力は見せかけ ロシアがウクライナから併合したクリミアで、プーチンの記者会見を見る市民 Pavel Rebrov-REUTERS

 ロシアのウクライナやシリアに対する軍事的関与には、世界のロシアに対する認識を操作しようという思惑が見え隠れしている。ISIS(自称「イスラム国」、別名ISIL)への空爆でアメリカと協調する構えを見せる一方で、アメリカの同盟相手であるウクライナやトルコ、シリアの穏健派反政府勢力への軍事攻撃も辞さない立場を堅持している。

【参考記事】シリア停戦後へ米ロとトルコが三巴の勢力争い

 ロシアは、ウクライナとレバント(トルコ、シリア、レバノンを含む東部地中海沿岸地域)の双方において、重要な地政学上の目的を達成しようとしている。クリミア半島やシリアにおける軍事基地を維持し、ウクライナがNATO(北大西洋条約機構)やEU(欧州連合)に組み込まれるのだけは阻止しようとしているのもそのためだ。

 しかし、ロシアの狙いはそれだけではない。もう一つの重要な使命は、アメリカの干渉からロシア自身を守ることだ。ロシアのエリート層は、グルジア(現ジョージア)のバラ革命、ウクライナのオレンジ革命などアメリカの影響を受けた反体制デモで政権が倒れた「カラー革命」がロシアに波及するのを何より恐れている。

【参考記事】ウクライナを見捨ててはならない

大胆さは弱体化の裏返し

 昨年、プーチンがシリアへの空爆開始によってISIS優位だった情勢を一変させ、国際的孤立状態から米欧諸国との交渉のテーブルへ一気に上り詰めるさまは、西部劇でバーに乗り込むカウボーイさながらだった。シリアで一定の影響力を確保したプーチンは、シリア問題で多少の譲歩をするのと引き換えに、欧米諸国のロシアに対する経済制裁の解除を促したい考えだ。

 だが、西側との関係を対等に見せかけるためのロシアのカウボーイ的な大胆さは、国の実態がそれだけ弱体化していることの裏返しでもある。

【参考記事】プーチンはなせ破滅的外交に走るのか

 まず、ロシアのウクライナ政策は破綻しつつある。ロシア政府は、EU加盟を目指す親欧派の政権を追い落とし、ロシアへの編入を望む親ロ派を後釜に据えるためにありとあらゆることをやっている。

 だが「ウクライナは崩壊に向かっている」と、ロシアの元政府高官は言う。「ウクライナを連邦化すれば、国は分裂する。かといって統一して締め付けを厳しくしても、同じことだ」

【参考記事】ウクライナ問題、「苦しいのは実はプーチン」ではないか?

 ロシアが直面する困難は誰の目にも明らかだ。2014~15年にかけて、自国通貨のルーブルはドルに対して24%下落、購買力は20%低下し、ロシアの国内総生産(GDP)も3.7%のマイナス成長を記録した。原油と天然ガスの価格下落も国庫を直撃している。

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