最新記事

テロ対策

ベルギー治安当局の「弱点」、連続テロで再び浮き彫りに

パリ同時テロ以降、治安強化に4億ユーロ追加を表明したベルギーだが22日の攻撃はその困難さを示した

2016年3月24日(木)09時26分

 3月22日、ベルギー治安当局が最重要指名手配犯を拘束した週末、同国政府は新たな攻撃が発生する可能性があると注意を喚起した。写真は爆発のあった地下鉄駅に集まった警官や救急隊、ブリュッセルで撮影(2016年 ロイター/Vincent Kessler)

 ベルギー治安当局が最重要指名手配犯を拘束した週末、同国政府は新たな攻撃が発生する可能性があると注意を喚起した。その警告は即座に現実のものとなった。

 首都ブリュッセルで22日、空港と地下鉄で相次いで爆発が発生し、少なくとも30人が死亡。攻撃後に過激派組織「イスラム国」(IS)が犯行声明を発表した。

 昨年11月の仏パリ同時攻撃の実行犯らの拠点がベルギーに置かれていたことが判明して以降、ベルギーは治安能力強化に4億ユーロ(約4億5000万ドル)を追加で投じると表明。しかし22日の攻撃は、治安強化への道のりが非常に長いものになることを示した。

 複雑な政治構造、スパイ機関の資金不足、原理主義指導者に対する寛容性、武器の闇市場など、ベルギーを欧州で過激派の攻撃を最も受けやすい国にする要素は多く存在すると、専門家は指摘する。

 パリ同時攻撃の実行犯として国際手配されていたサラ・アブデスラム容疑者をブリュッセルで18日に拘束したことは、ベルギー治安当局の大きな手柄となった。しかし同容疑者は4カ月もの間、同市周辺に潜伏していたとみられ、治安当局が直面する課題の難しさを示していることも事実だ。

 22日の攻撃が同容疑者の拘束と直接関係しているかどうか判断するのは時期尚早だ。米当局者は、拘束前に今回の攻撃が既に計画されていたとの見方を示した。

 米政府の関係筋によると、米国とベルギーはパリ同時攻撃以降、新たな攻撃が起こる可能性が高いとみていたものの、いつどこで発生するかは把握できていなかった。

 フランスのサパン財務相は、「一部の指導者」の「認識の甘さ」があり、イスラム系住民が集まる地域に対する治安取り締まりが十分に行われていないと発言。パリでの攻撃を受けて広がっていたベルギーの治安政策をめぐる議論を復活させた。

 これを受け、ベルギーのディディエ・デュカルメ議員は仏テレビに対し、サパン財務相が述べたようなコメントに「強い苛立ちを覚えつつある」と述べ、2014年にブリュッセルのユダヤ博物館で4人が死亡した事件の実行犯はフランスが拠点だったと指摘した。

レーダーの外

   ベルギー情報機関の職員の数はわずか600人と、隣国オランダの3分の1となる。シリアに渡った戦闘員で国民1人当たりの割合が欧州で最も高いのはベルギーだ。ブリュッセルのモレンベーク地区は、過激派の容疑者が数多く滞在しているとみられることから「聖戦士」の温床とされている。
今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

イラン関係ハッカー集団、トランプ氏側近のメール公開

ビジネス

米半導体ウルフスピード、連邦破産法の適用申請 株価

ワールド

アングル:出生地主義見直す米大統領令、最高裁の差し

ワールド

マスク氏、歳出法案を再度非難 支持する議員は議席失
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプvsイラン
特集:トランプvsイラン
2025年7月 8日号(7/ 1発売)

「平和主義者」のはずの大統領がなぜ? 核施設への電撃攻撃で中東と世界はこう変わる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ワニに襲われた男性の「最期の姿」...捜索隊が捉えた発見の瞬間とは
  • 2
    普通に頼んだのに...マクドナルドから渡された「とんでもないモノ」に仰天
  • 3
    仕事ができる人の話の聞き方。3位は「メモをとる」。2位は「身を乗り出す」。では、1位は?
  • 4
    「パイロットとCAが...」暴露動画が示した「機内での…
  • 5
    ワニに襲われ女性が死亡...カヌー転覆後に水中へ引き…
  • 6
    砂浜で見かけても、絶対に触らないで! 覚えておくべ…
  • 7
    突然ワニに襲われ、水中へ...男性が突いた「ワニの急…
  • 8
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 9
    顧客の経営課題に寄り添う──「経営のプロ」の視点を…
  • 10
    飛行機のトイレに入った女性に、乗客みんなが「一斉…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で大爆発「沈みゆく姿」を捉えた映像が話題に
  • 3
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門家が語る戦略爆撃機の「内側」と「実力」
  • 4
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 5
    定年後に「やらなくていいこと」5選──お金・人間関係…
  • 6
    夜道を「ニワトリが歩いている?」近付いて撮影して…
  • 7
    突然ワニに襲われ、水中へ...男性が突いた「ワニの急…
  • 8
    ワニに襲われた男性の「最期の姿」...捜索隊が捉えた…
  • 9
    サブリナ・カーペンター、扇情的な衣装で「男性に奉…
  • 10
    仕事ができる人の話の聞き方。3位は「メモをとる」。…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 3
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    妊娠8カ月の女性を襲ったワニ...妊婦が消えた川辺の…
  • 6
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 7
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 8
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 9
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 10
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中