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テロ対策

ベルギー治安当局の「弱点」、連続テロで再び浮き彫りに

2016年3月24日(木)09時26分

 欧米当局者の推計によると、1人の容疑者を気付かれずに24時間監視するには最大36人の治安要員が必要となる。職員数が多いとされる英情報局保安部(MI5)などでも、一度に追跡できる実行犯は限られるということだ。

 ベルギーのミシェル首相も改善すべき点が多いことを認めている。混雑する鉄道駅や空港などの標的になりやすいスポットで完全に安全を確保することはどの国にとっても不可能だが、ベルギーはそれをさらに困難にさせる独自の問題も抱えている。

 ベルギーはフランス語話者とオランダ語話者にほぼ二分されており、風通しの悪い政治システムも情報共有の妨げになってきた。地域や言語別に6つの地方行政組織で構成され、ブリュッセルは19の自治体から成る。こうした背景により、過激派が当局の監視レーダー外で行動することが可能になるほか、違法武器の取引が活発化するなどしている。

当局への批判

   ベルギー当局に対しては、若年層の男性を集めようとする過激派組織からイスラム系の国民を守らず、就職支援を提供することを怠ってきたとの批判が集まっている。一部では若年層の失業率が40%に達する地域もある。

 同国のシンクタンク、Egmontの対テロリズム専門家は「友好的でない社会に溶け込む困難さを理由に、彼らは自分たちが馴染むことのできる別の組織を探す」と指摘した。

 北大西洋条約機構(NATO)や欧州連合(EU)の本部から数マイルしか離れていないにもかかわらず、モレンベーク地区は別世界のようだ。過激派の追跡が困難なことで知られ、アブデスラム容疑者も両親の自宅から程遠くない場所で身を潜めることができた。

 欧州当局者は、いくら多額の資金を早期に追加しても、ベルギーの情報当局が山積する課題を即座に解決することは難しいとの見解を示している。フランスのある防衛当局者は、ブリュッセルで19日に開催されたイベントで「長い時間がかかることは承知している」と述べた。

 (Robin Emmott記者 翻訳:本田ももこ 編集:加藤京子)

[ブリュッセル 22日 ロイター]

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