最新記事

米予算

米国防費の膨張が止まらない!

2016年2月26日(金)17時00分
フレッド・カプラン(スレート誌コラムニスト)

 なぜ、こんなにも国防予算が膨張しているのか。そのほとんどは、冷戦時代に計画された兵器システムのための予算だ。

 すべてがそうとは言わない。ISIS(自称イスラム国、別名ISIL)対策予算(17年度は前年比50%増の75億ドルを計上)、サイバー防衛予算(67億ドルを計上)、テロ掃討ドローン(無人機)作戦予算(12億ドルを計上)などもある。

【参考記事】ドローンの次は、殺人ロボット

【参考記事】オバマ、ISISとの戦いに35億ドル

 だが予算増大の主たる要因は、あくまでもステルス戦闘機、原子力潜水艦、空母打撃群(空母戦闘群)などだ。ステルス戦闘機「F35統合打撃戦闘機」の開発計画は、10年以上にわたりトラブルが続いている。アシュトン・カーター国防長官は国防次官時代、メーカーに改善を要求したが、問題はいまだに解決していない。

 それでもカーターは現在、17年度に63機のF35を新規に購入する予算を要求している。費用は1機当たり約1億7000万ドル、総額で105億ドルに上る。加えて、18年度購入予定のF35の頭金として5億ドル近くの予算も求めている。

空軍と海軍重視にシフト

 救いはF35の購入が完了するまで、海軍のFA18戦闘攻撃機をさらに製造し、空軍のA10攻撃機の退役をあと数年先延ばしすると決めていることだ。両方とも安価な上に整備がしやすく、しかも十分に機能する。特に、現場のパイロットの人気が高いA10は、過去四半世紀にアメリカが戦ったほとんどの戦争で敵の戦車を破壊するために活躍してきた。

 国防総省は、議会から課された強制歳出削減措置により、いくつかの兵器の購入を見送らざるを得なくなったことに不満を表明している。AH64攻撃ヘリコプター9機、V22輸送機(オスプレイ)2機、C130J輸送機3機、そしてF35統合打撃戦闘機5機などである。そう、カーターはF35を63機ではなく、68機購入したかったのだ。

 しかし問題点が解決されるまで、F35の購入はもっと削減してもいいくらいだ。強制歳出削減に至る政治的経緯には問題も多いが、予算の無駄遣いを防いだことはけがの功名だった。

 最後に、国防予算に関してもう1つ注目すべき要素がある。それは国防総省内の対立だ。

 60年代半ばから比較的最近まで、国防予算は陸軍と海軍と空軍がほぼ等しく分け合ってきた。近年、それが変わり始めた。陸軍の大型戦車の導入が減る一方、海軍と空軍は艦船と航空機の導入を続けている。今回の17年度予算案では、海軍と空軍の取り分がそれぞれ36%と35%なのに対し、陸軍は29%にとどまっている。

 自部門の予算を削られた軍幹部の間では、不満や疑心暗鬼が渦巻いているようだ。カーターはISISとの戦いで頭がいっぱいらしいが、来年発足する新政権の国防長官は省内の戦いにも悩まされるかもしれない。

© 2016, Slate

[2016年3月 1日号掲載]

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

英中銀が金利据え置き、量的引き締めペース縮小 長期

ワールド

台湾中銀、政策金利据え置き 成長予想引き上げも関税

ワールド

UAE、イスラエルがヨルダン川西岸併合なら外交関係

ワールド

シリア担当の米外交官が突然解任、クルド系武装組織巡
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本の小説36
特集:世界が尊敬する日本の小説36
2025年9月16日/2025年9月23日号(9/ 9発売)

優れた翻訳を味方に人気と評価が急上昇中。21世紀に起きた世界文学の大変化とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「日本を見習え!」米セブンイレブンが刷新を発表、日本では定番商品「天国のようなアレ」を販売へ
  • 2
    中国は「アメリカなしでも繁栄できる」と豪語するが...最新経済統計が示す、中国の「虚勢」の実態
  • 3
    1年で1000万人が死亡の可能性...迫る「スーパーバグ」感染爆発に対抗できる「100年前に忘れられた」治療法とは?
  • 4
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 5
    燃え上がる「ロシア最大級の製油所」...ウクライナ軍…
  • 6
    【クイズ】世界で最も「リラックスできる都市」が発…
  • 7
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 8
    中国山東省の住民が、「軍のミサイルが謎の物体を撃…
  • 9
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 10
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 1
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 2
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれば当然」の理由...再開発ブーム終焉で起きること
  • 3
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサイルが命中、米政府「機密扱い」の衝撃映像が公開に
  • 4
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 5
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 6
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 7
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 8
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 9
    「なんて無駄」「空飛ぶ宮殿...」パリス・ヒルトン、…
  • 10
    観光客によるヒグマへの餌付けで凶暴化...74歳女性が…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 4
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 5
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 6
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 7
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 8
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 9
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 10
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中